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彼女の最も素晴らしいところは、ボランティア活動に積極的なことだ。
これは一緒に遊んでいて気付いたわけではない。日曜日に遊ぶ約束を入れようとすると、毎回のように断られていた。最初の方は全く気にしていなかったのだが、「何か別の予定があるのなら仕方がない」と言えるほど、俺の心は広くなかった。他に男がいるのではないかという疑念が、俺を動かした。
ゼミやサークルにおける、俺の少なすぎる人脈をフル活用して、他学部にいる彼女の親友の連絡先を何とか入手した。この子は風華と中学、高校、大学が一緒だと聞いていた。
変な奴に友達が狙われていると思われたくなかったので、文面はこれまでにないくらい推敲してから送信した。唯一の頼みの綱であるその子から返信がなければ、俺にはどうすることもできないのだ。その日は既読無視されていないか何度確認したことだろう。気付いたらレポートを書く手は止まり、スマホの画面をじっと眺めていたりもした。「今日は返ってこないか」と諦めて寝る体勢に入ろうとした瞬間、ピコンッと通知音が響いた。スマホを両手で持ち、画面の文字を食い入るように目で追った。
「夜遅くにすいません。今までバイト行ってました。返信遅れちゃってすいません。風華のこと大好きなんですね。応援しますよ。日曜日は、地域のボランティア活動に参加しているだけだから安心してください(笑)。おじいちゃん、おばあちゃんと話したりするやつです」
男じゃなかったぁ。よかったぁ。ほっとしたどころか、風華の株はまたしても爆上がり。ボランティア活動に参加してるって聖人かよ。なんてことを考えながら、お礼の言葉を打ちこんでいると、またしてもあちらからメッセージが届く。
「今週は私もボランティアに参加しようと思ってます。なんなら一緒に来ませんか? もし来るなら、参加するってことは風華に言わない方がいいと思います。ボランティアしてる姿はあんまり見られたくないとか言ってたような気がするので。変に真面目というか、謙虚というか。まあ、来るならこっそりお願いしますね」
もう一人の女神がそこにいた。親友もめっちゃ良い奴。
ボランティア活動なんて時間だけを浪費し、一銭の利益も出ないため一度も参加したことはないが、風華がいるなら話は別だ。もちろん行きますよ。行くに決まってんでしょうが。
当日、突然地元に参上した俺の姿に風華は引いているようだった。驚き7割、呆れ3割といった感じ。
ある人(特に自分のことをよく思っていない人)に好感を持ってもらうには、ある人の周りから攻める。いつぞや読んだ本に書いてあったのを思い出していた。まさにここだと思った俺は、おじいちゃんやおばあちゃん、風華の親友に『力持ちの良いお兄さん』を演じ、接した。去り際に「また来てねぇ」とおばあちゃん集団から言われたのだから、まずまずの成功を収めたと言っていいだろう。
ボランティアなんて大したことないだろうと甘く見ていたが、予想以上に忙しく、終わるまで一度も彼女と話すことができなかった。代わりに得意な観察で彼女のことをずっと目で追っていたのだが、彼女の動きは傍から見ても『できるお姉さん』であった。
愛想がよく、何よりコミュニケーション能力が高い。うんうんと、目を見て頷く姿。老人に無理に合わせて聞き流しているという感じが全くしなかった。
この芸当は40歳を越えてからでないとできないと思っていたのだが、俺がまだまだ子供であったのだと思い知らされた。彼女に下品な視線を投げかけ、あわよくばお触りしようとするクソ爺どもには腹が立ったが、来てよかったと思った。
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