せっかち症候群

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「お前はせっかちだ」とよく言われる。  馬鹿でノロマで仕事ができない奴ほど、その言葉を使いたがるようだ。  世間では、せっかちという言葉にマイナスイメージを持つ人も少なくない。だが俺にとって、このワードは褒め言葉以外の何ものでもない。なぜなら俺は、他人の『倍』を目標に生きてきたからだ。    時間は有限。無駄は極力省く。時間に振り回されて、無為な人生を過ごすなんて御免だ。 「時間は己がコントロールするもの」  これは親父の格言。俺の信念でもある。  親父はこんなにかっこいいことを言い残して、半年後にぽっくり逝っちまった。あとになって聞いたのだが、原因は過労。死ぬ直前まで表面的には元気だったようだが、五臓六腑は死にかけのジジイ並みに弱っていたらしい。三十六歳という若さだった。 「俺も早死にするかもしれない」  中学校の理科の授業で遺伝について習ったとき、そう思った。    これから先の人生で、一秒たりとも無駄にしないと誓ったのはこの頃だ。  中学生なんて大きく分けて二通りしかいない。 「毎日がなんとなく楽しければいいかな」と言ってぼんやり過ごす奴。 「青春を謳歌するんだ」と口先だけいっちょ前で、親が敷いてくれたレールの上をはみ出さないよう一生懸命になっている奴。  実はこいつら、大差ない。家に帰ればスマホをいじる。時間どころか小さな機器に振り回され、管理されている。  ゲームに夢中の、近所の雑魚どもは一秒の重さに気が付かない。気付くのは社会人になる頃か、それとも一生気付かず仕舞いか。この時期からすでに、俺は周りの人間に憐れみを持って接してあげていることが多かった。  明日死ぬかもしれないと思いながら、精一杯生きてきた。死に際に「良い人生だった」と心から言いたい。そのためには一片の悔いも残してはいけない。  だからこそ、遅くてトロい奴には腹が立つ。  急がば回れ? 急いてはことを仕損ずる?  バカバカしい。今の時代、要領が良い、悪いですべてが決まる。能力差の問題だ。    はっきりさせておこう。俺について来られない奴が悪いのだ。これに関して、異論は認めない。    まぁ、こんな性格だから友達は少ない。類は友を呼ぶと言うが、その通り。俺と波長の合う、本当に賢い奴のみ。自分がさも選択しているみたいな言い方だが、ありがたいことに勝手に離れていくことの方が多い。
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