せっかち症候群

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 今までに出会ってきた人の中で、話を聞いていて本当に為になるなぁと感じたのは、ゼミの教授くらいだろうか。  現在、勤めている直属の上司は、支離滅裂で怒鳴り散らすことしか能のない正真正銘の馬鹿だ。  おっと、この話はやめておこう。愚痴るという低俗な行為を、俺はしない主義なのだから。  ……しっかし、この上司の、自分よりも劣っている部分を列挙し始めるとキリがない。負けているのは年の差だけだ。  えっと、何の話だっけ?……そうだ、教授。俺が唯一認める、尊師の話。  話すのが速いで有名だったこの教授。この人の講義を受けた学生の大半が「話が飛躍し過ぎて何言ってるのかわかんない」と愚痴を漏らした。  ちがう。理解するだけの脳を持ち合わせていないだけだ。早口であることには違いないが、論理的で非常にわかりやすい説明をしてくれる人だった。  この人生。  特に20歳になるまでの人生で、自分の弱点を挙げなければならないのだとしたら、色恋沙汰を一度も経験してこなかったことだ。言い訳がましく聞こえてしまうかもしれないが、恋愛というものがこの20年間に入り込む隙間など微塵もなかったのだ。自分を極限にまで追い込んだ生活を送っていたのだから。  こんな俺の初恋は、大学三回生の春。4月生まれのため、ちょうど21歳になった頃だった。  あれから3年も経ったのかと思うと、感慨深いな……。  一目惚れだった。その女は俺の心を『一瞬』で鷲掴みにした。運命の人だと真剣に思った。自分でも処理が追いつかないほどの、溢れて止まないこの想い。数少ない友人にこの気持ちを初めて打ち明けたとき、祝福するどころか俺のことを笑った。絶対に恋などしないタイプだと思っていたに違いない。  惚れた理由とシチュエーション。それがおかしいと、今でも飲みの場で笑い種にされる。知らん。恋愛なんて人それぞれだろ。  この女性について語ろう。  すごーく長いものになってしまうかもしれない。今から語る内容は、俺の愛の量に比例する。辛抱して聞いてくれ。興味のない奴はここから出て行ってくれてもかまわない。
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