18人が本棚に入れています
本棚に追加
東村山音頭
「ずっとですか?音楽、ダメなのは?」
「あ。小さいころは歌ってたよ、普通に。幼稚園で歌うやつ。それから、えっと、ウルトラマン、仮面ライダー、ゴレンジャー、オバQ、ハクション大魔王」
「歌ってもらえます?」
「勘弁して」
「すいません」
朝倉君、随分食いついてくる。
バンドなんかやってるから、音楽を楽しめない人間が信じられないんだろうな。
「一番好きだったのは?何ですか?そのころ」
「一番好きなの」
「はい」
「ううんと。えっと。一番か、一番。ああ。なにかな?東村山音頭とか、好きだった」
「ひがっしむらやーまー♪」
カウパーが歌い始めた。
「にーわさーきゃ、たまーこー♪」
今度は、野火さん。
「さやっまちゃーどこーろ、なっさけがあっついー♪」
「そーれ」
「ひがっしむーらやーまよんちょうめ~♪」
「ひがっしむーらやーまよんちょうめ~♪」
志村けんは、僕のヒーローだ。
「そうだそうだ。みーんな歌ってた。あの頃の子供」
「大人もね。カウパー」
「東村山って地名を偶然聞くだけで、誰かが歌い始める」
「そうそう」
「僕だって知ってますよ。リアルタイムじゃないけど。ひーがしむらやーまさんちょうめ~♪」
「おお。朝倉君、さすが」
二番だ。
「ひーがしむらやーまさんちょうめ~♪」
「ちょいとちょっくらちょいとちょいときねて♪」
「いちどはおいでよさんちょうめ♪」
「はい。南さんも」
「いちどはおいでよさんちょうめ♪」
ははは。歌えない。やっぱ。
「やっぱダメですか」
「ははは。ごめんね。朝倉君」
「でも、あれですね。聴いてて大丈夫でした?」
「あ。そういえば。大丈夫だったよ。気持ち悪くない」
「じゃあ。えっと」
「ぎんがーみー♪」
「カウパー。それ、南さん中学生のころのやつ。キン肉マンだよね。歌詞違うけど」
「俺たちは、こうやって歌ってました。ぎんがーみー♪」
はいはい。
「むねーにつけーてる、まーくはりゅうせー♪」
「じまんのじぇっとで、てーきをうーつー♪」
「どうですか?南さん」
「あ。平気だ」
「あ。じゃ、おれおれ。南さん。行くよ。ばんばらばんばばん、ばんばらばんばばん♪」
「あ。カウパー。ゴレンジャー。平気」
「あのね、きゅーたろーはね~♪」
「おばけのきゅーたろーはね♪」
「大丈夫ですか?」
「うん。大丈夫」
そっか。小さいころに歌ってたやつは大丈夫なのかな。
「やせいのうーまーは~♪」
え?
「やせいのうーまーはー♪」
あ。中学校の音楽の授業でやったやつだ。「野生の馬」。
「ごめん。朝倉君。それ、勘弁。まじ、勘弁」
「すいません。わかっててやりました」
「そんな」
「たしかめたかったんで。すいません」
僕は、ビールを飲んだ。
「僕が、音楽ダメな原因。多分だけど。わかってるんだよ」
「話していい内容ですか?」
「うん。大丈夫だよ」
「聞かせてください」
「うん」
あ!と、カウパーが、叫んだ。
「その前に、ちょっとまて。3番やってねえじゃん。東村山音頭。一丁目」
ははは。
「いっちょめいっちょめ、いっちょめいっちょめ、いっちょうめ♪」
わお!
最初のコメントを投稿しよう!