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エアライド
「どんな時でも安全運転。ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!」
「はい!って言われても」
「どんな時でも安全運転、ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!」
「だから。お父さん。どうすればいいの?」
夜、パソコンで僕の書いているものを娘の春緒がまた覗いてきたのだ。
「「ぴ」。なんか、窮屈だね。そんなことしてたんだ。お父さん、職場で」
「うん。高校はどうなの?そういうのない?「ぴ」みたいなの」
「ああ。私の学校はノーチャイム制だよ。そこまで厳しくない」
「だよな、普通。うちの仕事場、なんか全部縛られちゃってて、時々嫌になるよ」
「ご苦労様です。私がこんな風に学生生活を送れるのも、そんなお父さんのおかげだよ」
「ははは」
「でさ。どうすればいいの?ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!って」
「あのね。じゃ、二人でやろう」
どっこいしょ。僕は床から立ち上がった。
「足は肩幅に開いて」
「はい」
「この辺、丁度呑長席の上に横書きの標語が貼ってあるからね。それを指さす。まっすぐ手を伸ばして。両手で」
「両手で!?」
「うん。両手で」
「やばいよ。この姿勢」
「目が少し怪しくなるでしょ」
「うん。なんか、今まで感じたことのないこの怪しい心」
「そうなんだよ」
「で?」
「じゃ、やるよ。どんな時でも安全運転。ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!で、復唱」
「どんなときでも安全、、」
「あ。言い忘れた。あのね。復唱しながら、前に貼ってある標語を指でなぞるの」
「まじ?両手で?」
「うん。勿論」
「全員で?」
「そう。各班、みんな一列になって」
「わあ。怖い。怖いよ、お父さん」
「怖くてもしょうがない。打ち勝とう」
「はい!打ち勝つ!叩きのめす!」
「何を?ま、いいや。じゃ。やるよ。どんな時でも安全運転。ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!」
「どんな時でも安全運転。ドントハリーな呑箱局員!よし!はい!」
「はい!は、いらない」
「あ。そっか。どんな時でも安全運転。ドントハリーな呑箱職員!よし!」
「よくできました」
「すっごい。怪しい気分。はあ。なんか喉渇いた」
春緒は、僕のビールジョッキで麦茶を飲んでいる。
「そのジョッキさあ」
「ああ。お父さんのだよね。ごめん。何度も汲むの面倒でさ」
「そう思ってた。あげるよ、それ」
「うそ。ありがとう」
「僕ももうそんなに飲まないしね。お酒」
「そっか。ねね。呑箱局の朝のルーティン、教えて。その後は?」
「ああ。その後は、ええと。エアライド」
「なにそれ。かっこいい名前」
「そう?エアライド」
「うん。空を飛んでるみたいな」
「はははは。やってみる?エアライド、しようぜ!」
「おお!」
僕たちは、再び隣同士で並んで立った。
「足は肩幅に開いて」
「あ。はい。さっきといっしょね」
「うん。それでね。手は、こう。バイクのハンドルを持ってる姿勢」
「こうね。わ。なんか、すごく嫌な予感」
「そう?ふははは。じゃ。行くよ。まず。後方よし!」
「ん?復唱?」
「そう。復唱して、後ろを見て確認して」
「はい。後方よし!こう?」
「うん。上手です。じゃ、一歩前へ」
「はい。これは?」
「ああ。バイクが一時停止線から、少し前に出たのをシュミレートしたんだね」
「なるほど。一歩前」
「右よし!」
「右よし!」
「左よし!」
「左よし!」
「後方よし!」
「後方よし!」
「前方よし!」
「前方よし!」
「しゅっぱあつ!」
「しゅっぱあつ!」
「ぶるんぶるーん!」
「ぶるんぶるーん!」
「どう?」
「あはははは。これ、おじさんたちが一列になって」
「そうそう」
「楽しい職場。ドリフみたい」
「楽しくはない」
「そう?」
「あ。そうだ。ちょっとした楽しみ方はあるよ」
「何?」
「このバイクを持つ手をね。ちょっとずつ真ん中に近づけると」
「わあ。猫ちゃんポーズ。かわいい」
「ね。こういう風に遊んでいる。何人かで、そのポーズを見せあう」
「おちゃめ」
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