THE SEVEN FLOWERS JAZZ ORCHESTRA

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THE SEVEN FLOWERS JAZZ ORCHESTRA

カウパーとはっちゃんのウェディングライブは、隣駅の駅前にある市のコミュニティセンターを建物ごと借りられた。カウパーに相談されて僕が探した場所だった。 ホールの正面は舞台。客席にあたる場所にパイプ椅子を並べ、両脇の食べ物スペースから好きなものを取って食べながら聴いてもらう。 ちなみに、挙式そのものは二人きりで先月、桜の花に囲まれた近くの神社で挙げたそうだ。 まだ午前9時半。ライブ開始までは3時間ある。 僕が会場に入ると、早速、ものすごい音の圧が僕にぶつかってきた。 春緒たちの結成したビッグバンドのリハーサル中だった。   * 「じゃあさ。予習しとく?お父さん」 「うん。悪いね」 「ちょっと待って、写真あるからね。今、持ってくる」 昨日の夜、僕は初めて聴く春緒の演奏の前に、今まで一度も見たことのないメンバーのことが知りたくなったのだった。 春緒たちが今回結成したビッグバンドは、中学生の頃、自らの手で校内に立ち上げたバンドの創設メンバーが中心。主に当時の中学一年生二年生で編成されたものらしい。 春緒は、新バンド結成時の全体写真を持って来てくれた。 この並び順で舞台に上がるのだという。 「楽しそうだね」 「うん。バンド名も決まりました」 「なんて?なんて?」 「THE SEVEN FLOWERS JAZZ ORCHESTRA」 「おお。意味は?」 「いやあ。恐れ多いけれども、七草と言えばこれっていうバンドになれたらなあ、って」 「へえ。いいね。地元密着型」 「はい。愛してください」 「応援する。写真よく見せて。あ。春緒、ここだ」 「はい。雛壇の一番上はトランペットね」 「おお」 「ええと、じゃ、リズム隊からね。ドラムがかとちゃん、ベースは猪狩君、ギターがむう君。それで、ピアノが荒井ちゃん。荒井蝶。カウパーさんの奥さんの妹だって。もう、びっくりしたよ。偶然って」 「ね。お姉ちゃんが、荒井蜂で、妹が荒井蝶だってさ」 「荒井ちゃんがまだ小学校に上がる前に、お姉ちゃん、高校出てすぐ畳屋さんの修行で家出ちゃったんだって。それ以降は数えるほどしか会ってないらしくて、そんなに記憶ないって」 「今回は、じゃ、御対面」 「うん。あ。でも、カウパーさんにはもう会ってる。リヨンに挨拶に来てくれた」 「ああ。カウパー、ひとりでフランスに行ったんだよな」 そうだったそうだった。 「で、じゃ、こっちのホーン隊ね。前列、一番左が、テナーサックスの純ちゃん」 「うん。純ちゃんは知ってる。こないだ会った。忘れられない。なんか個性が」 「そう言うと喜ぶと思うよ、なにせ役者を目指してるから」 「そうだね」 「で、その隣がアルトサックスのチャーリー、同じくアルトのちゅんた。バンドの司会はこの二人、漫才コンビなんだ。パーカーズっていう。で、同じくアルトで、エミさん。エミさんは、このバンドのボーカルもやる」 「へえ。ボーカルもいるんだ」 「うん。いいよ、エミさんの歌。明日も歌う。楽しみにしててね。その次がテナーの里美で。で、一番右が、バリトンサックスのバリちゃん」 バリトンで、バリちゃん。 うん。こう、ガタイがごつくて、バリちゃんっぽいな。 「ちなみに柔道は全国レベル」 「すげ」 「はは。じゃ、中段ね。トロンボーン」 「うん」 「一番左が長作ちゃん。こないだ会ったね。その右が早苗。次が井関君。で、次が、石橋さん。石橋さんはピアノもうまいから、荒井ちゃんがいないときはピアノ」 「そっか。荒井さんは、フランスだもんね。家」 「そう。荒井ちゃんは絶対外せないメンバーだけど、普段は日本にいないからね。ええと。で、一番右が福井君。バストロンボーン。この子はね」 「うん」 「私、小学生の時から知ってるけど、不真面目でね。ブラスバンドの練習もひどかった」 「へえ」 「で、中学で不登校になって」 「大変」 「でも、そこから立ち直って復活したら、それは目覚ましい。多分5人で一番トロンボーンがうまい」 「そうなんだ」 「この度、トロンボーンで音高に進学することになりました」 そっか。いろいろ物語が詰まっている。 「最後に、一番上の段が、トランペット」 「はい」 「一番左にいるのが西瓜ね。それから、私。凛ちゃんに、リーガル」 「うん」 「4人実力伯仲と思ってたら、途中から西瓜がぐんぐんうまくなって。もう、私は追い付けない」 「ははは。西瓜カルテットのライブ、凄かった」 「だよね。でもね、凛ちゃんが一生懸命西瓜に負けまいとがんばって。二人、小学生の頃からのライバルだからね」 「おお」 「そして、凛ちゃんは春から長作ちゃんの後輩になりました。同じ芸術高校の音楽科にトランペットで受かった。がんばった」 「へえ。ここにも」 ここにも物語が。 「問題はね」 「ん?なんかあるの?」 「西瓜の方なんだよ。実は」 「え?」 「高校が決まってない」 「決まってないって、もう四月じゃない」 「そうなんだよね」
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