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マンボ!
舞台では、THE SEVEN FLOWERS JAZZ ORCHESTRAのリハーサルが続いている。
「いいですね。この曲」
「Mistyだね」
雰囲気のあるスローバラード。
歌を歌ってるのは、エミさんだ。こないだ春緒が持ってた写真を見て覚えた。
それで、ひと際でかいトロンボーンを構えてソロを取ってるのが福井君か。
ふたりとも上手だなあ。
「それよりさ。どうしたの?春緒ちゃん、ケニアに行って」
「ああ。あの。夏から一年、留学していいかって、言われました」
「え?」
「びっくりですよ」
「ケニヤに?」
「はい」
「すげえ」
「七草があっちの町と姉妹都市になるらしいんです。それを記念して」
「へえ。じゃ、お金は出してくれるの?」
「はい。滞在費と渡航費は出してくれる」
「すごい。じゃ、問題は?」
「それが」
*
「一年間ナイロビの高校に通うのね、春緒」
「はい」
「ええと。そこでいろいろ勉強するのね」
「うん。スワヒリ語。それから向こうの文化。動物の生態。数学とかもちゃんとやるよ。授業は英語。英語は会話を日本で勉強してから行く」
「そっか」
「休みの日なんかは、いろいろ連れて行ってくれるみたい。国立公園、博物館、研究所」
「うん」
「あと、いろんな人と合ったり、式典に参加したり、パーティーに出たり」
「うん」
「で。あっちのやっぱり動物に興味のある高校生と交流する」
「うん。ええと。住むところは?どうなるの?」
「それなんだよ、問題は」
「ん?」
「私はあっちのお家にホームステイする。お部屋を借りて、ご飯食べさせてもらう」
「おお」
「でね。これ、交換留学のプログラムなんだ」
「ん?」
「だから、私がお世話になるうちの子が、ここで寝泊まりするなんてことを」
「あ!」
「お願いしてもいいでしょうか」
「そう、なるか」
*
「わはは。どうするの?南さん」
「どうするもこうするも、受けないと駄目でしょう。家内は、すごい喜んでる」
「南さんは?」
「いやあ。なんてか」
「ははは」
「だって。よその家の17歳の女の子が一年、家に泊まるんですよ。文化も違う。食べ物も習慣も違う」
「ははは。そりゃ緊張する」
*
「見る?リーマの写真」
「リーマ?」
「うん。その女の子ね。将来は、獣医になりたいんだって」
「へえ」
あ。わあ。きれいな肌だ。
「素敵な子だね。目がぴかぴか。笑顔が可愛い。素直そう」
「そうなんだよ。めちゃくちゃいい子。日本語も少しだけ話せるよ」
「へえ」
「どうでしょう?お父さん」
「どうでしょうって、もう決めちゃってるんでしょ」
「はい」
「僕はいいよ。春緒の部屋を使ってもらえばいいのね」
「うん」
「お母さんには言っておく」
「ありがとう、お父さん」
*
「ははは。楽しみだね。南さん」
「ええ。でも、不安の方が大きいですけど」
「スワヒリ語は?できる?」
「出来るわけないじゃないですか?でも、少し勉強してます」
「まじ?」
「マンボ!」
「何?何?」
「こんにちは、です」
「おお。うー、マンボ!」
「はい。で、マンボ!と言われたら、ポアって返す」
「ポア!」
「そうです。うーマンボ!」
「ポア!」
ははは。
なんかちょっと楽しみになって来たよ。
マンボ!
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