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中村門堂の未来
「こんばんは。ブルース・ウィリスです」
「わ!」
ある程度の心の準備はしていたものの、思わず便器を閉めてしまった。
びっくりしたあ。
男子便所の個室から呼ばれた僕は、中に入り早速便器の蓋を開けた。
そこに現れたのは、スキンヘッドの男の頭だったのだ。
「南殿お。南殿お。暗えだよ」
はいはい。
蓋を開ける。
「こんばんは。松山千春です」
「わ!」
ばたん。
「南殿お」
はい。
「こんばんは。火野正平です」
「わかりましたって。中村さんですよね。どうしたんですか?髪型」
「あはは。もうちょっとやりてえ。ええだか?」
「はい」
中村門堂は相変わらずだ。
「こんばんは。武藤敬司です」
「おお」
「こんばんは。伊武雅刀です」
「うん」
「こんばんは。織田無道です」
「え?」
「こんばんは。ボビー・オロゴンです」
「あの。中村さん」
「こんばんは。瀬戸内」
「あの」
「ん?」
「だんだん微妙になってきました。一度やめたほうが」
「そうだか」
「よく調べましたね。そんだけ、この時代の人。あ。この時代じゃない人もいるけど」
「ははは。やることねえもんでな。いろいろな」
「前会ったときはアフロでしたよね」
「ああ。ちと飽きたんでな。頼んでみなこさんにやってもらっただ」
文政時代の武士だったとはとても思えないこのバイタリティー。
多分この人はどの時代でもやっていけるんだろう。
「ところでどうしました?あの後」
「ああ。そのことを話しに今日は来ただよ」
「あの。たしか文政には戻れないって」
「その通りだ」
実は心配していたのだ。
文政時代に茶畑の防霜ファンの点検をしていた中村門堂は、大雨による過電圧を原因とする感電死寸前で山ちゃんに救い出された。
もう文政には戻れないらしい。しかし、どこの時代に居座るわけにもいかない。
「山ちゃんがいろいろ考えてくれただよ」
「はい」
「みなこさんにも大分お世話になっただ」
「そうですか」
「それでな」
「はい」
「うん。この時代の人にちゃんと説明するのはちとむつかしいが」
僕は、文政の人間に何を説明されようとしているのだろうか。
「おらは、データ化するだ」
「は?」
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