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事件
昨日は、あの後は何もなかったかのように陽翔と過ごした。少し最初は緊張してしまったけれど、陽翔は普通に接してくれていたので、私も普段通りに話せた気がする。
陽翔は話しかけてくれていたけど、私はびっくりしてうわの空だった。
頼んだ紅茶とケーキを食べながら、うん。うん。と頷いている。
「おい〜澪〜きいてる??」
「ひゃっ」
私はびっくりして前をみる。
陽翔は私の顔のに冷たい手を頬にくっつけてきていた。
まっすぐ私を見つめている陽翔。
私達は見つめ合いその場の時間が止まった様だった。
「ねぇねぇ、あそこにいるの4組子達じゃなかったっけ?」
「しっ!美沙、声大きい!」
「こんな所でイチャついてるよ〜うけるんだけど〜」
私達の時間は程なくして、隣りの大きな声によって引き戻された。
陽翔は「うるせぇ〜よ!」と威嚇していたけれど、私達の噂は一瞬にして広まった。
こんなにも学校に噂が回るなんて思いもみなくて、びっくりしてしまう。
普通のカップルなら当たり前の事だと思うんだけど、面白がって広めたんだと思う。
「あの子だよ〜、何よ可愛くないじゃん」
周りの人に指を刺されて噂されてる……
何なんだろう。悪い事をした訳じゃないのに……
どんな噂なんだろう。
通りすがる同級生が嫌そうな目で私をみるから
同級生を捕まえて聞くことにした。
同じクラスのごく真面目そうな山田さん。
見た目は黒髪でショートカットで黒縁メガネの本当に誰からみても優等生の山田さん。
山田さんは、必要以外は人と話さず、自分の席で読書をしている。読書と言っても参考書だけど。
だから、山田さんなら教えてくれると思って聞いてみようと思ったのだった。
「山田さん……今日の放課後、聞きたい事があるから残って貰えるかな?」
「うん?私に聞きたい事ですか? 何の事でしょうか?」
「うん……今は、ちょっと……」
「そんなに時間はかからないですか?」
「うん。要件だけ聞いたら帰るから」
「わかりました」
山田さんはそう話すとすぐに参考書に目を向けて何事もなかったかのように涼しい顔をしている。
よかった。これで帰りにどんな噂がたっているのかわかる。
莉子や樹に聞いてみたけれど、分からないっていうし、莉子の態度がなんかよそよそしくて気になる……
それとも、気のせいなのかな……
帰りは用事があるとみんなに先に帰っててとお願いして山田さんの所に行った。
「山田さん、ごめんね。すぐに来れなくて」
「何ですか?話とは?」
私が謝った事に対しては触れずに本題に入る。
「実は…… 何か私について変な噂が広がってたりするのかな……?」
少し、沈黙が続いたあと山田さんは話しだした。
「いいんですか? きっと傷つきますよ……」
山田さんが咳払いをして、私の返事を待つ。
「うん。覚悟は出来てる。包み隠さず全部教えて」
「わかりました」
そう言って山田さんは話しだす……
♢
私は、帰り道を泣きながら歩いていた。
山田さんは、傷つきますよって言ってたけど、こんなに酷い事とは思わなかった。
「まぁ。そんな噂、気にしなければいいんです。人は人、自分は自分ですから」
そう言って慰めてくれるから、余計に涙が次から次へと流れてきた……
「もう……やだ……」
ぐずっぐずっと鼻水が流れてくるのを必死で啜る。何もかも嫌で、鼻水が止まらない事でさえ、悲しくなってくる。
その日は、泣きながら家に帰った。人目なんて気にしていられない。
帰ってからも涙が止まらなくて次の日は、瞼がパンパンに腫れていた。
「あ〜あ……学校行きたくないな……」
身体が重くて準備が出来ない。
「ほらっ、どうしたの〜澪!遅刻するわよ!」
お母さんが1階から階段を登ってくる音が聞こえる。
「こらっ!起きなさい!」
布団をガバっと剥がされる。
寒いなと思いながらも、起きれない。
「あらっ、どうしたの?瞼が腫れて……
今日は、体調悪いのね?休みにしようか?」
私は、コクンと頷く。お母さん、ありがとう……心の中で感謝して……
「なんか疲れた。少し眠ろう」
そうつぶやいた頃には、眠りに落ち始めていた。意識が遠くなるのを感じた。
ピンポーン
インターホンの音で目が覚めた。
目を覚ますと部屋は暗くなりかかっていた。
こんなに寝てたの!っとびっくりしながら
玄関に向かう。
「は〜い。どちら様ですか?」
インターホンのカメラをのぞくと陽翔と莉子が来ていた。
2人とも心配そうな顔をしている。
びっくりして、急いでドアをあける。
「心配して来てくれたの?ありがとう」
「澪、大丈夫?心配したよ〜体調でも悪かったの?」
莉子は、入って来るなり、質問してくる。
「おい、澪は、体調悪いんだろ!そういう質問攻めはやめろよ」
陽翔は私を守るように莉子に突っかかっているように感じられる。
「2人ともごめんね。今日は、体調悪くて休んだんだ……心配かけてごめんね」
「よかったよ。俺、すげー心配した!メールも既読つかないしさっ!」
「あっ、ごめんね。今まで眠ってたから」
普通に話しているつもりだったけど、部屋の空気に違和感を感じて、今、思えば、嫌な予感がしていた。
2人で話してる時に、突然、私の目の前で陽翔が「うっ……」と痛そうに蹲る。
「えっ? どうしたの?」
私は、その時、状況が飲み込めずにいた。
「陽翔!大丈夫?しっかりして!」
胸が苦しくて、涙が出てくる。
怖い!凄く怖い!
膝まづいて陽翔を抱き抱える。
陽翔が蹲る向こうからは莉子が私の視界に入った……
莉子は、薄ら笑いながら、手には赤く染まった包丁を持っていた。
「あっ……」
私は、その場から逃げたいけれど、陽翔を置いてはいけない。
生暖かいものが手について、手を見ると真っ赤に染まっていた……
身体の震えが止まらない……
「莉子……どうして……?」
「あんたがいけないのよ!私は、ずっと陽翔が好きだったのに、あんたが陽翔に色目を使って陽翔も私なんか見てくれなくて、あんたを好きになった。手に入らないなら私の手で壊してしまった方がいい」
莉子は、狂いながらも笑って、涙を流しながら私に近づいてくる……
「莉子だったんだね。ウソの噂を流した人」
「そうだよ。だって、ウザかったから」
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