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それが祖母との最後の会話だった。
それから3日後に伯母家族に看取られながら祖母は息を引き取った。
結局祖父が亡くなった事は最後まで告げられなかったらしい。
だが、もしかしたら祖母は祖父が亡くなっている事に気付いていたのかもしれない。
毎日来ていた人がある日を境にぱたりと来なくなったのだ。
何となく勘付いていてもおかしくはない。
それを承知の上で皆に心配をかけないよう騙された振りをしていたのかもしれない。
今となっては俺の想像に過ぎないが、だとすればお互いに嘘をつき合っていた最期ではあったけれど、それでも紛れもなく愛情に満ち溢れていたと思う。
世の中には知らなくても良いような残酷な現実が多く存在している。
それを自分が知った時に敢えてその現実を相手に突きつけるべきなのか、それとも知らない振りをして隠し通すのか、どちらが正しいのか俺には分からない。
でも確かに1つだけ言える事は、向き合うべきは常にそれに関わる目の前の人間なのではないかと祖母の優しい笑顔が教えてくれた気がした。
きっと俺はこれからもたくさん嘘をつき、嘘をつかれるだろう。
それでも決して相手を思いやる気持ちと覚悟を忘れてはいけないと今も心に固く誓っている。
北海道の夏は短い。
7月が終わり、8月の盆が過ぎれば秋はもうすぐそこだ。
茹だるような暑さの中、来たる秋に思いを馳せながら今日も俺はいつもと変わらず仕事に追われていた。
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