ワッフルと春風

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「小川さんって……」 「ほら、総務の」 「……」 「大垣くんて前の職場でも年上キラーで有名だったみたいですよ」 わたしは黙って聞いていた。 「今頃、他の職場でまた年上食い荒らしてるんじゃないですかねー」 わたしは黙って聞いていた。 「そんなやつ忘れちゃいましょ、ね、チーフ」 わたしは黙って聞いていた。 駐車場の、桜の木の下に立ってみた。 当然ながらグレーの車体はそこになく、春の終わりの風だけがわたしを迎えた。 縁石のところに、何か白いものがちらりと見えた。地面とのわずかな隙間に紙切れが挟まっている。 動悸を抑えながらかがみこんで引っぱりだした。大垣くんと一緒に入ったことのあるドトールの店舗のレシートが二つ折りにされている。日付もちょうどその辺りのものだ。 「ごめんね ありがとう」 裏側にボールペンで書きつけられた文字を見たとき、初めて涙が出てきた。 あの日みたいな強い風が吹いて指先から紙片をさらっていっても、わたしはいつまでもそうしてそこに立ち尽くしていた。 <おわり>
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