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結局、太一たちのチームは最下位という結果だった。優勝したのは、渉と千紗がいるチーム。何なんだろう、この格差。
「よぉし!みんな自分たちの順位忘れんなよー!バスん中でも言ったけど、成績の良かったチームから、夜の肝試しで一緒に回るペアを指名できるからな」
初耳のルールだった。皆があれほど張り切っていた理由が今わかった。
「どうせ俺らは指名されねえだろうし、ペアになるかもな」
「このままだと二日間、僕たちべったりかもね」
いわゆる”ヤリサー”とカテゴライズされるこのサークルでは、毎年合宿で盛大な飲み会が開かれる。宴会場で堂々と絡み合う男女もいれば、いつの間にか姿を消すカップルもいる。
そういったメインイベントに全く興味のない太一は例年、部屋でひとり大人しく寝るだけだった。
今年はゲイということで一括りにされたのか、太一と円加さんで二人部屋をあてがわれていた。文字通り、朝から晩まで共に過ごす羽目になるかもしれない。
「私、渉を指名するねー!」
千紗が愛嬌たっぷりの笑顔を見せて、渉の腕に抱きついた。その様子を冷めた目で眺めていると、振り向いた渉と目が合う。渉はわずかに顔を強張らせ、ぎこちない笑顔で千紗に返事をしていた。太一はいつものように、穏やかに微笑んで渉を見返す。
もう何百回もやっていることなのに、この瞬間、太一の心はいつも温度を失っていく。その度、自分が未だに渉に何かを期待していることに気づいてしまって、ひどく自己嫌悪する。
いつになったら、太一の心は麻痺してくれるんだろう。
「太一。昼飯バーベキューなんだってな。知ってた?」
円加さんが太一の肩に腕を回した。
「しおりに書いてあったじゃん。ほんとに何も見てないんだね」
心底面倒臭さそうな表情が、円加さんらしくておかしかった。すっと心が軽くなる。
「何笑ってんの?」
「円加さん、仕事してない時ってマジで子どもだよね」
笑いを押し殺そうと思ったけれど、できなかった。喉の奥から声が漏れる。
怒られるかと思ったら、逆に笑顔を見せられた。いつものシニカルさはなく、リラックスした自然体の笑みだった。もやもやとした感情が吹き飛ぶ。見惚れている間、渉のことが頭から消えていた。
「あ、の!太一。えっと」
どこか困ったような渉の声。先ほどとは違い、今度は穏やかな気持ちで笑顔を見せることができた。
「肝試し、千紗ほっぽって逃げないようにね」
渉が目を見開く。
・・・大丈夫。今、すごく落ち着いている。
「ほら、手伝いに行こう?円加さん」
太一は円加さんの手首を掴んで、渉に背を向けた。
「そういやさ、いつまで”さん”付けされるの、俺」
クーラーボックスから肉の塊を取り出しながら、円加さんが不満げに言った。そういえばこの人、年下なんだっけ。
「なんか円加さんは、呼び捨てだとしっくりこないんだよね。どうしても”円加さん”て呼びたくなっちゃう」
「何だそれ。・・・まあ、距離置かれてるわけじゃねえならいいんだけど」
バーベキューというのは得意な奴がどんどん材料を焼いていって、周りはどうしても見ているだけになってしまう。太一も円加さんも手伝うタイミングを完全に逃し、クーラーボックスの前に陣取って言われるがまま材料を取り出すだけの人になっていた。
「円加さん、肉はタレつけて食べる派?それとも塩?」
「塩だな」
「ああ、だと思った」
肉が焼けるのを待ちながら、太一はバーベキューのタレを血眼になって探していた。くそう、焼けたらすぐに食べたいのに。
「ほら。これだろ」
後ろから声をかけられ、持っていた紙皿にタレが注がれる。渉だった。いつも通りの笑顔だったけれど、どこか声が硬い。
「ありがとう」
少し様子が変だと思ったけれど、太一はいつも通り穏やかに返した。渉の口元がピクンと引きつる。が、すぐに明るい声を出した。
「太一が探してるっぽかったから、持ってきた」
隣にいた円加さんが太一の肩を抱き寄せる。太一が手に持った皿に顔を近づけると、そのままペロンと一口舐めた。
「あっま・・・」
「何してんの」
「味見」
「塩派じゃなかったのかよ」
不味そうに顔をしかめる円加さんを見て、太一は苦笑する。渉が無表情で固まっていたことに、この時は気づかなかった。
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