猫と綺羅星

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**  飲み会では、全く酒に酔えなかった。円加さんは太一の近くではなく、肝試しで指名された女の子と隣り合って座っている。モデルだからなのか、酒は飲まずにウーロン茶ばかりを口に運んでいた。  時間を確認すると、11時半を過ぎたところだった。コールの声がうるさくて、それ以外の話し声が全く耳に入らない。  渉とは、12時に太一の部屋で会う約束をしている。円加さんにはそのことを伝えていた。 「念願、叶ったじゃん。俺は渉の部屋で寝るから気にすんな」  そう言って笑った円加さんは、やっぱりこの上なく綺麗だった。胸がズキズキと痛む。円加さんとの距離が遠ざかっていくようで寂しい。そんな風に思う権利なんて、太一にはないのに。 「うん、ありがとう」    太一の周りで、限界を超えた学生たちが次々と座敷に倒れこむ。ここまできたら、もう誰が消えたかなんて皆覚えていないだろう。  そっと立ち上がり、宴会場を後にする。部屋まで続く廊下を歩いていると、後ろから追ってきた渉に呼び止められた。 「気が早いな」  渉の顔が嬉しそうに(ほころ)んでいる。 「渉はまだ飲んでていいよ。僕はちょっと、準備があるから」 「準備?・・・ああ」  後ろから、ぎゅっと抱きしめられた。 「俺がやろうか?」 「大丈夫。あと三十分くらいしたら部屋に来て」 「でも」 「いいって。ていうか、見ない方がいいよ。渉は、男とするのがどういうことか、まだわかっていないと思う」  渉は少し(ひる)んだ顔をしたが、すぐに微笑む。 「わかった。じゃあ、また後で」  部屋のシャワーで中を綺麗にしながら、ゆっくりと(ほぐ)していく。これから渉とするんだという実感がまるでなかった。渉のサイズがわからないから、何をされても傷がつかないように、丁寧に、奥まで柔らかく(ひろ)げていく。  思えば太一も、男が未経験の相手とするのは初めてだった。いきなり突っ込まれたりはしないと思うけれど、少し怖くなってくる。  シャワーを終えると、すでに渉が部屋にいた。浴衣に着替えているので、体を洗ってきたのだろう。 「おう。上がったか」  頬が薄っすらと赤くて、緊張したように(うつむ)いている。太一の心臓が、一気に鼓動を早めた。  ・・・本当に、渉とするんだ。  腰にバスタオルを巻いた状態で、渉の横に座る。そのまま沈黙が流れた。なかなか手を出してこない。  リードするべきか悩んでいると、顔を合わせないまま抱きしめられた。太一の肌が、渉の力強い腕を直接感じ取る。シャワーから上がったというのに、のぼせそうな気持ちだった。暴れる心臓。下半身に血が巡っていく。そのまま、もつれ合うようにベッドに倒れこんだ。  太一の硬くなった熱が、(まと)ったタオルを押し返す。渉と視線がぶつかった。色を帯びた瞳を向けられ、どうしようもないくらい感情が(たかぶ)ぶった。互いの荒い息だけが、室内に立ち込める。  恐る恐るといった手つきで、渉が太一の股間に手を伸ばした。タオルの下に手を差し込み、天井を向いた竿をぎゅっと握る。それだけで、太一の先端からは透明の液体が(あふ)れ出た。興奮して、うまく息が吸えない。けれど渉は、そこで動きをパタリと止めた。 「・・・渉?」 「ごめん、ちょっと待って」  渉の手が震えていた。瞳から欲の色が消え失せ、動揺したように目が泳いでいる。その様子を見て、太一の心の中で、ぎりぎりのところで形を保っていた何かが、あっけなく崩れ落ちていった。  ・・・なんだ、やっぱりダメなんじゃないか。  こうなるんじゃないかって不安はあった。あったけれど、それでも勇気を出して試してみようと決めたのに。渉が少しでも自分に興奮しているのを見て、つい(ほだ)されてしまった。(ほだ)されて、油断した。 「・・・もういい。渉、部屋戻れ」  渉はハッとした様子で首を横に振る。 「ちが・・・嫌だっ!!大丈夫だから、このまま続けさせて」  太一は渉の手を思いっきり振り払った。 「覚悟がないなら期待させるなよ!お前は最低だ!・・・できるって言うなら、ほら、挿れてみれば」  腰のタオルを外し、一糸まとわぬ姿を(さら)す。自分で自分のモノを握り込み、太一は後ろを拡げてみせた。渉が、そこを凝視したまま固まる。  その時、ドアが勢いよく開かれた。
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