猫と綺羅星

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「俺はやっぱり、渉が嫌いだ」  唇を離した円加さんは、誰よりも傷ついた顔をしていた。いつも強気な円加さんが、今日はいろんな表情を見せる。そのことがなんだか嬉しくて、ひどく辛そうに震える顔を可愛いと思ってしまった。 「なんで、円加さんが泣きそうになってんの」 「太一のがうつった」 「何だそれ」  ふっと笑うと、再び唇を塞がれる。誘うような激しさはなく、ひたすらに甘やかすだけの、優しい口づけ。胸の奥がくすぐったくなる。可愛らしいリップ音が鼓膜(こまく)に響き、じわじわと、甘い(しび)れが脳を(おか)していく。  呼吸が楽だ。体の力が抜け、全身が緩む。円加さんが太一を一層強く抱きしめた。じんわりと暖められた感情が、膨張(ぼうちょう)していく。先ほどとは違った思いが心を満たし、そして(あふ)れた。  気づくと、太一はまた泣いていた。悲しそうに顔を(ゆが)めた円加さんは、何も言わず、伝う雫を唇で受け止めた。ちゅる、と優しいリップ音が鼓膜(こまく)をくすぐる。 「円加さん、もう大丈夫だから。そんなに優しくされると、また涙、止まらなくなる」  円加さんは少し驚いた顔をしたが、すぐに嬉しそうに目を細めた。 「もしかして、今泣いたのって俺のせいだった?」 「・・・なに嬉しそうにしてんだよ」 「そりゃ嬉しいだろ。渉ばっかりずるいって思ってたんだ。俺も、俺のことで泣く太一が見たかった」  太一は苦笑する。そんなことを考えていたのか。最低なセリフにも聞こえるのに、円加さんの声が優しいものだから、心がきゅんと震える。太一は円加さんの頬を両手で包み、口づけを返した。円加さんの瞳が揺れ、すっと細められる。  体に感じる重みが増していく。体重がのせられ、全身を抑えつけられた。 「あんたも大概、ずるいよな。(なぐさ)めて欲しいならちゃんと言えっての」  円加さんの浴衣がはだけ、厚みのある上半身がむき出しになった。呼吸が荒くなっていく様子に、ぞくりと腹の奥が反応する。互いの肌に挟まれて、下半身の熱が硬く、存在感を増していくのがわかった。浴衣の(すそ)に手を入れると円加さんは下着をずらし、膨張した熱を取り出す。太一の熱に押し当てると、腰をグラインドさせ()りつけた。  円加さんが、見せつけるように太一の後頭部を持ち上げた。ひっと声が漏れる。力強く(こす)り合っている動きを見て、後ろがヒクヒクと痙攣(けいれん)した。 「俺としちゃっていいの?・・・どうする太一、今ならまだ引き返せるけど」  熱に浮かれた瞳で見つめられ、太一の息が上がっていく。ここでそれを聞くのかと腹が立った。 「引き返せるわけないだろバカ」  太一は浴衣の(えり)を掴んで円加さんを引き寄せると、そのまま唇に噛み付く。円加さんが楽しそうに笑った。 「痛てえなあ」  手首が引っ張られ、頭上に抑えつけられる。浴衣の帯をほどいて両手を縛り上げると、無防備に(さら)された全身を前に円加さんが舌なめずりをした。髪をかきあげ、上気した頬を不敵に(ゆが)める。 「お前が渉を裏切りたくないっていうから、必死で我慢してたのにな。台無しだ」 「何で縛るんだよ」 「そういうのが好きなんだろ?昴から聞いたけど」  頬がかあっと赤くなる。視線を逸らし、ぶっきらぼうに答えた。 「違う。別にそんな趣味ないし」 「ふうん?ま、でも、太一は何もしなくていい。俺に任せていい子にしてろ」  
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