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扉を閉じると、円加さんは太一を抱きしめた。さらりと柔らかな長髪が太一の頬にかかる。
「円加さん?」
太一の唇が塞がれた。呼吸を奪うように、こじ開けられた口元を覆うようにかぶり付かれる。ふわりと漂う、甘く刺激的なスパイスの香り。円加さんとのキスは、円加さん以外を感じることさえ許さないというように、五感も思考も全てを支配される。むしゃぶりつくように唇を吸われ、噛まれ、求められているんだという実感に酔いしれる。
渉と付き合っている時は、こんな気持ちになることはなかった。お互いの気持ちが、お互いだけに向いている。抱きしめたら、抱きしめ返してくれる。キスをしたら、その何倍ものキスで応えてくれる。そんなことがたまらなく嬉しくて、幸せで、あっという間に幸福に溺れていく。
名残惜しそうに、そっと唇が離された。二人は無言で見つめあう。円加さんは困ったような顔をして、太一の頭を抱き寄せた。悩ましげなため息が聞こえる。
「ちょっと、本当にどうしちゃったの?」
円加さんを腕の中に囲い、ゆっくりと頭を撫でてあげた。首筋に頬ずりをされ、そのまま、ちゅうと吸われる。
「今、痕つけたでしょ」
苦笑すると、円加さんが大きく息を吐いて、太一の体を力強く抱きしめた。
「変だ、俺」
「変って何が」
太一は円加さんの耳元に口づけを落とす。
「あんたと付き合ってから、仕事が何にも手につかない。集中したいのに、切り替えらんねえんだ。気づくとあんたのことを考えちまう」
太一の顔がブワッと赤くなった。首まで熱い。
・・・うっわ。これは、やばい
円加さんが、赤く染まった太一の首筋を舐めあげる。
「ひぁっ・・・」
「今日だって、こうしてあんたにずっと触りたくて」
長い指先がつうっと、太一の顎から、下へ下へと降りていく。喉がごくんと上下した。円加さんが喉仏にキスをする。
これ以上はまずいと思った。自分を止める自信がない。
「まっ円加さん!ストップ!これから試着するんでしょ!」
太一が円加さんの口を手で覆うと、円加さんはまたため息をついて、頭をこてんと太一の肩にのせた。
「しんどい・・・」
・・・あ、甘えられている。可愛い。可愛すぎる。円加さんて、こんなキャラだったっけ。
胸の奥がムズムズするのをぐっと堪えて、なんとか体を引き剥がす。
「今じゃなくたって、いつでもできるだろ。・・・付き合ってんだから」
顔を真っ赤にして俯く。なんだかものすごく恥ずかしいことを言った気分だ。あれ、僕って、こういうことを言うキャラだったっけ。
「・・・だな」
円加さんが太一の頭にキスをした。今日何回目のキスだろう。数え切れないくらい毎日してくるから、もう円加さんの感触を覚えてしまった。
俯いたまま視線を泳がせていて、太一はピタリと固まった。
「あれ、円加さん、勃ってる・・・?」
「そりゃ勃つだろ。恋人とこんなことをしてりゃあ」
太一は顔が青ざめた。
「ちょっと待って。これから試着してショーで履くやつを選ぶんだよね?まずいじゃん」
円加さんは、あっけらかんとした声で言った。
「別にまずくねえよ。こういうモデルしてると、見られながら勃っちまう奴なんてザラにいるからな。珍しくもねえし、誰も気にしねえよ」
「だとしても、僕が嫌だ。恋人は僕なんだから、僕以外のやつに円加さんを見せたくない」
「・・・じゃあどうする?これ」
円加さんが太一の髪をさらりと撫でる。瞳に、期待と欲がない交ぜになった色が浮かんだ。見つめられ、ゾクゾクと体が痺れる。
太一は黙って膝立ちになり、下着の上から硬くなったそこに口づけた。紐に手をかけ、纏われた布をするりと剥がす。視界いっぱいに硬く、そそり立った熱が、太一を急かすように脈打っていた。見上げると、円加さんが舌なめずりをしてる。
「ちゃんと顔、見せて」
太一の前髪をかきあげ、そのまま欲のこもった視線を注がれる。
「・・・言っておくけど僕、こういうの初めてだから。下手だし、時間かかるかも」
「大丈夫だよ。お前に咥えられたら俺、秒でイく自信あるから」
円加さんの凶悪な笑顔を見て、太一は余裕なんて吹き飛んだ。
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