猫と綺羅星

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「自分が、何してるかわかってんの」 「こうでもしないと、大人しく俺の話なんて聞いてくれないだろ?」  渉は、拘束バンドを取り出して、太一の両手両足をぐるぐると縛っていく。ソファに横倒しで寝かされながら、どうやって抜け出そうかを必死で考えていた。  下のホールで流れる音楽が変わった。一気に歓声が充満する。  ・・・ショーが始まったんだ。  円加さんはトップバッターから始まり、三回衣装を変えてステージに登場すると言っていた。  ・・・ごめん、円加さん。見てあげられないかもしれない。  太一は歯を食いしばる。 「僕たちの間で、もう話すことなんかないでしょ」 「だから、勝手に終わらせんなっつってんだよ。いつ別れていいなんて言ったよ」  渉が、手にナイフを握りながら、据わった目をして淡々と口を開く。 「まだ俺らは恋人同士なんだよ。それなのに、太一は円加と浮気してる。許されると思ってんの?」 「浮気って・・・ちゃんと付き合ってるんだよ」 「なら別れろ、今すぐ」 「・・・嫌だって言ったら?」  渉が舌打ちをした。  「なあ太一。お前は俺が好きだろ?お前のしてほしいこと、何だってしてやるよ。言ってみろ」 「じゃあ僕と別れて。これをほどいて」 「それはできない。俺はお前が好きだから」  だめだ、話が全く前に進まない。一体どうしたら。 「僕は・・・渉が好きだったよ。でも今はもう、僕の気持ちは全部円加さんのところにある。やり直すのは無理だ」 「どうすればいい?どうすればまた好きになってもらえる?」 「・・・頼むから、僕のことは諦めてよ」 「嫌だっつってんだろ!!!」  渉の口元がわなわなと震え、瞳には涙が光っていた。通じ合えない苛立ちに、太一の方が叫びたい気分だった。 「・・・俺、知ってんだよ」 「何を」  一層低く響く声で渉が(つぶや)く。不穏に口元が引き結ばれた。 「合宿の夜、お前、円加に抱かれたろ」  太一は黙った。心臓が尋常じゃないくらいに早鐘を打っている。手足が冷え、かすかに震えた。 「・・・知ってたの」 「ああ。見てたからな」  渉は歯をギリギリと(きし)ませる。握られたナイフが不気味に揺れ動く。太一の視界に、反射した光がチラついた。 「千紗を部屋まで送った後、同期に頼んで見張っててもらったんだ。俺はすぐに太一の部屋に戻った。太一に謝ろうと思ったから!なのに、お前は!!!」  言葉が出なかった。渉がボロボロと泣いている。 「すげえ気持ち良さそうにしてたよなあ?太一があんな風に(あえ)ぐなんて、俺知らなかったよ」 「渉・・・ごめん僕、気づかなくて」  渉が急にゲラゲラと笑いだした。真っ赤に充血した目が細められ、目尻から雫が伝い続ける。 「しょうがねえよ。太一、円加以外見えてなかったみたいだから。・・・なあ」  渉はゆらりと立ち上がり、真上から太一を見下ろす。ゾッとして、歯がカタカタと震えた。 「お前が円加に惚れたのは、あいつに抱かれたからだろ?・・・じゃなかったら、あんな簡単に心変わりするはずがないもんな」 「な、に、いって」  渉は太一の髪を乱暴に掴むと、そのまま顔を抑えつけ、太一の唇をべろりと舐めた。全身が鳥肌で(おお)われる。 「体の相性って大事だもんな。だったらさあ、俺とも試さないといけないだろ」 「ざけんなっ!離せ!!!」 「それで気持ち良かったら、太一はまた俺を好きになるよな?」  体から一気に血の気が引いていく。渉が再び笑顔を見せた。かつて見慣れた、あの無邪気な微笑みだった。    
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