86人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
賑やかな音楽が鳴り響くホール。会場全体が楽しげに揺れていた。二階から壁を隔て、熱気をどこか遠くに感じながら、VIPルームの室内で、太一はくぐもった呻き声をあげていた。
渉は拘束され身動きの取れない太一に跨りながら、息を荒らげ、太一の前を扱いている。下着を膝下までずり下ろされ、下半身がローションでベトベトだった。
「ちょっと、硬くなってきたんじゃないか」
根元を強く握り込まれ、痛みで息が漏れる。
「っは、悦さそうだな」
「ちげえ、っての」
さっきから、腰のあたりに硬いものが当たっている。
・・・悦くなってんのは、そっちだろうが
渉は再びローションを取り出し、太一の尻にドロドロと垂らした。
「合宿のことがあってからさ、もう後悔したくないと思って、男同士のやり方を調べたんだよ。絶対、円加より気持ちよくさせてやるからな」
渉が指にゴムをつけ、太一の後ろに差し込んだ。
「お、ま・・・あっ!」
遠慮のない動き。太い指が中で蠢いて、ぐりぐりと無理やり奥をこじ開けようとする。痛みで額に冷や汗が浮かび、指先が冷たく湿っていく。目に涙が溜まった。
「も、やめ・・・抜、け」
「何言ってんだよ。こっからだろ」
室内に響く卑猥な水音に興奮したのか、指の動きは次第に激しくなっていった。汗の浮かぶ太一の頸に、渉が舌を這わせる。全身を鳥肌が包んだ。そのまま吸いつかれ、耳元に熱い息がかかる。
「い、やだ・・・んんっあ」
「いい声出すじゃん。な、そろそろOKだよな」
渉が中から指を引き抜いた。全身で息をする太一を見下ろし、硬く膨張した熱を取り出す。
「っざけ、な・・・」
渉が熱に浮かされた目をしながら、太一の尻に手をかける。入り口を開き、先端を押し当てた。
「待っ・・・嫌、だ」
「俺にもお前の声、聞かせてくれよ」
渉が力を込める。メリメリと先端が入り口を押し開き、激痛で体が痙攣した。息が吸えない。肌が粟立ち、喉の奥から悲鳴のような吐息が漏れた。
「はは、そんなに悦いか、太一。でもキツすぎてこれ以上挿入らないから、ちょっと力を抜いてくれ」
・・・全然、悦くねえ、よ。逆だバカ
ゼエゼエと荒い息を吐く太一に、渉が愛おしそうな声をかける。
「男とすんのは、いいもんだな・・・はぁ、女より締まってて、や、べ」
御構い無しに力を入れてくる渉。鋭い痛みに気絶しかけた。
「勘違い、す、んな・・・っん、あ、それ以上は、・・・めろ」
渉は、無理やり奥までこようと力任せに腰を押し込める。入り口がビキビキとひきつれて、太一はたまらず悲鳴をあげた。まつ毛が涙で滲む。
「あ、れ・・・?太一、お前、血が・・・」
渉の動きがピタリと止まった。朦朧とする意識の中で、渉の慌てふためいた声が聞こえる。その時、VIPルームのドアがガンガンと叩かれた。
「渉・・・?!ここにいるの、ねえ、返事して!!」
聞き覚えのある、女性の声だった。
千・・・紗・・・?
「なんで、血が・・・」
そんな声など聞こえていないかのように、渉が動揺しきった様子で呟いた。
「たりめ、だろ・・・そんな、中途半端に解されただけで、挿れられても、なんも感じね、よ・・・」
太一はぐったりとして、身も心も疲れ果てていた。けれど、なんとか力を振り絞って、口を開く。
「な、渉、はさ・・・僕が簡単に心変わりしたって言ったけど、誤解だよ」
渉は呆然としたままで、太一の話を聞いているのかわからない。それでも、言わなければと思った。
「簡単に、心変わりなんかできるわけねえだろ。当然だよ。渉のこと、すっげえ好きだったんだから。人生で初めてなんだよ。あんなに人を好きになったのは。でも」
太一の瞳から、涙が溢れる。
「・・・たぶん、初めて大げんかしたあの日、僕の気持ちは、もう変わってたんだ。渉を好きだったけど、好きって気持ちから愛情が消えてた。残っていたのは、ただの執着だ」
「なんだよ、それ」
渉の目が見開かれる。苦しげに口元が震えていた。
「あん時、もう僕らの関係は終わってた。そのことに、ずっと気がついていなかっただけだ。そのまま、ずるずると続けちまった」
渉が、拳を強く握りこんだ。
「なあ、もう僕たち、別れよう・・・?」
ポタリと雫が背中に落ちた。同時に、ドアの外が騒がしくなる。ガチャガチャと慌ただしい音がして、勢いよく扉が開かれた。
「太一くん!!」
血相を変えた昴さんが部屋に飛び込んできた。そのまま、太一は意識を失った。
最初のコメントを投稿しよう!