93人が本棚に入れています
本棚に追加
**
ポケットでスマホが振動する。画面を見ると、新しいメッセージが届いていた。
『今晩、会える?』
昴さんからだった。太一は少し迷う。昴さんとのセックスはめちゃくちゃに気持ちが良かったけれど、同じ相手と二度は寝ないことにしていたから。
大学の事務局の受付に並びながら、なんて返そうかを考える。その時、入り口の自動ドアが開いた。白に近いブロンドの艶やかな長髪を後ろでまとめた、背の高い男が中に入ってきた。
男は列の最後尾にいた太一を見つけ、軽く目を見開く。
「あれ?あんた・・・」
この迫力ある美貌を備えた男を、太一はふたりと知らない。思わず目が釘付けになった。はっとして、ぺこりと頭を下げる。
「どうもっす。まさか、こんなところで会うとは」
円加さんは、どうやら同じ大学の学生だったらしい。それにしても、明るいところで改めて見ると、顔の細部までが精巧に描き込まれた絵画のように、繊細な美しさが際立っていた。
この前も思ったけれど、やっぱ美形だな・・・
円加さんが太一の後ろに並んだ。近くに来られると、顔を見上げる格好になる。175センチの太一よりも10センチ以上、背が高いように思った。円加さんはフンと鼻を鳴らす。
「なるほどね。明るいところで見ると、確かに昴の好みど真ん中って顔してるわ」
「そっすか」
なんだこの威圧感。口角が不自然に上がっている。ククッと不気味な音が漏れた。喉の奥で笑っているらしい。どうしよう。だいぶ怖い。
「円加さん、でしたっけ。この時期に事務局にくるなんて、何かあったんですか」
「俺、4月からここに転部すんの。その書類出しにきた。あんたは?」
なるほど。もともと学部が違ったわけか。どうりで今まで知らなかったはずだ。同じ学部でこんな美形がいたら、絶対に騒がれてるし。
「僕は、学生証失くしちゃって。再発行の手続き」
「あーあ。地味にめんどいやつじゃん」
円加さんが、同情したように眉根を寄せた。口調は荒いけれど、そんなに悪い人でもないらしい。せっかくだし昼ごはんでも一緒に食べようという流れになって、太一は円加さんの手続きが終わるのを待っていた。学生証がカウンターに出され、入学年と生年月日が一瞬だけ見えた。
悠木円加
XXXX年8月19日生
え、うそ。円加さん、年下かよ。
「悪い。ちょっと時間かかった」
「全然いいよ。ていうか円加さん、二年生だったんだね」
「うん。なに驚いてんの」
「年上だと思ってたからさ。ちなみに僕、三年」
「年なんてどうでもいいよ。俺、敬語とか使わねえからな」
そういうつもりで言ったんじゃなかったんだけれど。ずれたやりとりがおかしくて笑ってしまった。
「あんた、名前、カズだっけ」
「それはアプリの中だけね。本名は太一」
「ふうん。太一、今日は三限あったりする?」
太一は首を横に振った。円加さんがニッと笑う。意図していないとは思うけれど、顔が美しい分、微笑まれると何だかぞっとしてしまう。
「ならちょっと歩くんだけど、気に入ってる店があってさ。行こうぜ」
ふたりでキャンパスを揃って出るところで、談笑しながら歩いている渉と遭遇した。太一と目が合うと、パッと顔を輝かせる。胸がチクリと痛んだ。渉の隣には、小柄で可愛らしい女の子がくっついている。渉の腕に抱きついて、ニコニコと楽しそうに話しかけていた。渉の視線を追って太一に気がつくと、挑むような目を太一に向ける。
「太一じゃん。なに、今から昼行くの?」
渉は興味津々といった顔で、円加さんを見る。渉の友人たちも、圧倒的な美しさを放っているこの男のことが気になっているようだった。
「うん。ああ、こいつは円加さんっていって、さっき仲良くなったんだけど」
渉はプッと吹き出した。
「さっきって!人見知りのくせに、珍しいな」
「あー・・・ね」
もちろん、知り合った経緯なんて話せるはずもない。円加さんは何かを察したのか、ずっと黙っていた。
最初のコメントを投稿しよう!