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なのにどうして忙しい合間を縫って新幹線に乗ってまで、わざわざここまで来たんだよ。
──最後に俺に会いたかったんじゃないのか? せめて顔を見たかった?
こんなこと言ったら、お前にはまた自惚れてるって怒られそうだけどな。
でもこれは、恋人を安心させてやれなかった俺の落ち度だと思うから。
せめて今できることを、と俺は彼女に対して言葉を尽くす。
「離れても、お前のことは変わらず愛してる。もちろん仕事だって、何ひとつ諦める気はない」
心配してくれるのはありがたいけど、な。俺は、大丈夫だ。
だからお前も、俺と自分を、信じろ。
──もう少しだけ、待っててくれ。
「お前からは、別れの言葉よりエールが欲しいよ。できれば噓じゃなく、……舞」
ついさっきまでの、作られた人形みたいなものとは違う、恋人の歪んだ泣き笑いの表情。
だけど、偽りのないその心を映したかのように。
こんな顔をしてさえも、この子は、綺麗だ。
~END~
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