1.あんず色の世界で

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「ねぇ、この部屋はなに?」 「お話は、中へ入ってからにいたしましょう〜。さぁさぁ」 「あっ、ちょっと待って……」  小さな男の子は僕の膝裏を押して僕を部屋の中へと押し進めた。慌てて振り返ると、彼も後から入ってきて引戸を閉めるような仕草をする。すると、またカラカラカラとレールの上を滑車が滑るような音がして、あんず色の世界は僕の視界から徐々に消えていき、やがて僕は白一色の部屋に閉じ込められた。 「さぁ、こちらへどうぞ〜」  男の子に促され、僕はベッドの縁に渋々腰を下ろす。僕が座ったことで彼との物理的距離が近くなった。よく見ると不思議な子だ。ランニングに短パン、裸足という出で立ちなのだが、それ以上に目立つ特徴が、尖った耳と尖った犬歯。そして、頭に乗った二本の角。何かのコスプレをしているのだろうか。  彼のコスプレ姿に疑問が沸いたが、それよりも、なぜこの子は僕の名前を呼び、僕をここへ引き込んだのか。知りたいこと、聞きたいことが山ほどある。とりあえず僕は無難な質問を投げてみた。 「あの、君は誰なの?」 「申し遅れました〜。僕は、冥界区役所事務官である小野さまのご命令で、あなたをお迎えに参りました小鬼です〜」 「小鬼?」 「はい〜。人間のような名前は特にありませんので、小鬼とお呼びください〜」 「はぁ……あの、それで、ここはどこなの?」 「冥界区役所の管理する宿泊所です〜」 「……」  全く無難な質問ではなかった。  小鬼? 冥界区役所?  なんだそれ。聞きなれない単語に、僕がフリーズしていると、自分を小鬼だという小さな男の子は、心配そうに僕の膝を揺すった。 「古森さん、大丈夫ですか〜? お顔の色が優れませんけど〜」 「ああ、うん……大丈夫」 「いやいやいや。そこは、突っ込んでくださいよ〜。死んだのに顔色も何もないだろ~って」  上の空で生返事を返す僕に、小さな男の子改め小鬼は、笑いを全力で堪えるような顔をしながら超強烈な一言を放った。  はっ?? 死んでるってなに? 僕、死んだの?  一瞬でフリーズした僕の態度に、先程まで必死で笑いを堪えていた小鬼が、崩れかけていた頬を次第に痙攣(ひきつ)らせて慌て始めた。 「あ……あれ~。古森さん、死んだこと自覚なかったんですか〜? ええっと、では、車に撥ねられたことは覚えていますか〜?」 「……車に撥ねられた?」 「あら〜、そこも怪しいですか〜? では、コンビニに週刊漫画雑誌を買いに行かれたことは〜?」 「……あぁ、そうだ……」
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