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「ねぇ、この部屋はなに?」
「お話は、中へ入ってからにいたしましょう〜。さぁさぁ」
「あっ、ちょっと待って……」
小さな男の子は僕の膝裏を押して僕を部屋の中へと押し進めた。慌てて振り返ると、彼も後から入ってきて引戸を閉めるような仕草をする。すると、またカラカラカラとレールの上を滑車が滑るような音がして、あんず色の世界は僕の視界から徐々に消えていき、やがて僕は白一色の部屋に閉じ込められた。
「さぁ、こちらへどうぞ〜」
男の子に促され、僕はベッドの縁に渋々腰を下ろす。僕が座ったことで彼との物理的距離が近くなった。よく見ると不思議な子だ。ランニングに短パン、裸足という出で立ちなのだが、それ以上に目立つ特徴が、尖った耳と尖った犬歯。そして、頭に乗った二本の角。何かのコスプレをしているのだろうか。
彼のコスプレ姿に疑問が沸いたが、それよりも、なぜこの子は僕の名前を呼び、僕をここへ引き込んだのか。知りたいこと、聞きたいことが山ほどある。とりあえず僕は無難な質問を投げてみた。
「あの、君は誰なの?」
「申し遅れました〜。僕は、冥界区役所事務官である小野さまのご命令で、あなたをお迎えに参りました小鬼です〜」
「小鬼?」
「はい〜。人間のような名前は特にありませんので、小鬼とお呼びください〜」
「はぁ……あの、それで、ここはどこなの?」
「冥界区役所の管理する宿泊所です〜」
「……」
全く無難な質問ではなかった。
小鬼? 冥界区役所?
なんだそれ。聞きなれない単語に、僕がフリーズしていると、自分を小鬼だという小さな男の子は、心配そうに僕の膝を揺すった。
「古森さん、大丈夫ですか〜? お顔の色が優れませんけど〜」
「ああ、うん……大丈夫」
「いやいやいや。そこは、突っ込んでくださいよ〜。死んだのに顔色も何もないだろ~って」
上の空で生返事を返す僕に、小さな男の子改め小鬼は、笑いを全力で堪えるような顔をしながら超強烈な一言を放った。
はっ?? 死んでるってなに? 僕、死んだの?
一瞬でフリーズした僕の態度に、先程まで必死で笑いを堪えていた小鬼が、崩れかけていた頬を次第に痙攣らせて慌て始めた。
「あ……あれ~。古森さん、死んだこと自覚なかったんですか〜? ええっと、では、車に撥ねられたことは覚えていますか〜?」
「……車に撥ねられた?」
「あら〜、そこも怪しいですか〜? では、コンビニに週刊漫画雑誌を買いに行かれたことは〜?」
「……あぁ、そうだ……」
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