1.あんず色の世界で

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「例えば〜、現世で法律を完璧に守った人がいます〜。一切の違反行為をしなかったその人ですら、地獄行きはほぼ確定です〜」 「そ、そんな、まさか……」 「地獄行きの基準、それは、魂が守るべき五つの戒律、五戒を現世で破ったか否かなのです〜」 「そ、その五戒と言うのは?」 「不殺生(ふせっしょう)不妄語(ふもうご)不倫盗(ふちゅうとう)不邪婬(ふじゃいん)不飲酒(ふおんじゅ)です〜」 「ふ……何?」  耳馴染みのない単語を一気に浴びせられた僕は、眼を白黒とさせる。そんな僕を呆れたように見上げながら、小鬼は言葉を続ける。 「五戒は、どれか一つを破っただけでアウト。地獄行きです〜」 「ええっ!?」  五戒を理解し切れていないのに、「アウト」と言う単語に妙に焦る僕に向かって、小鬼はまるで問診でもするかのように、淡々と質問を始めた。 「え〜、では、古森さんに質問です〜。まずは、不飲酒。これまでにお酒を飲んだことはありますか? はいか、いいえでお答えください〜」 「い、いいえ」 「そうですね〜。まだ、十九歳。法律で許されていませんね〜」 「う、うん」 「では、次〜。不邪婬。夫婦以外の人と肉体関係を持ったことはありますか〜?」 「いいえっ!!」 「ですよね〜。何せまだ、チェリーボーイですもんね〜」  チェリーボーイらしく、肉体関係と言う単語に顔を赤くしながら力強く発した僕の回答を、小鬼はしれっと流す。 「おいっ!!」 「あれ〜? 違いました〜?」 「い、いや……違わ……ないけど……」 「では、次に行きましょう〜。次は、ええと?あ、不倫盗ですね。盗みをしたことはありますか〜?」 「いいえ」 「捕まっちゃいますもんね〜。では、次。不妄語。嘘をついたことはありますか〜?」 「……ッはぃ……」  僕は小さく答えた。なるほど、そう言うことか。僕は五戒とやらを破っていたようだ。小さなウソ。些細なウソ。どうしようもないウソなら、これまでにいくらでもついてきた。項垂れる僕に向かって、小鬼はタブレットらしき端末を見ながら補足説明をしてくる。 「そうですね〜。古森さんのはじめての嘘は、五歳の時です〜。冷蔵庫にあったシュークリームを勝手に食べておきながら、お母上に食べていないと言いました〜」 「ハハッ、何だそれ。ガキだな」  渇いた笑いが口から溢れる。しかし、顔は強張り上手く笑えなかった。小鬼は、慰めにならない言葉を軽くかけてくれる。 「ほとんどの人はこの不妄語をクリアされませんので、お気になさることはありませんよ〜」 「……そう、なんだ……」
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