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「例えば〜、現世で法律を完璧に守った人がいます〜。一切の違反行為をしなかったその人ですら、地獄行きはほぼ確定です〜」
「そ、そんな、まさか……」
「地獄行きの基準、それは、魂が守るべき五つの戒律、五戒を現世で破ったか否かなのです〜」
「そ、その五戒と言うのは?」
「不殺生、不妄語、不倫盗、不邪婬、不飲酒です〜」
「ふ……何?」
耳馴染みのない単語を一気に浴びせられた僕は、眼を白黒とさせる。そんな僕を呆れたように見上げながら、小鬼は言葉を続ける。
「五戒は、どれか一つを破っただけでアウト。地獄行きです〜」
「ええっ!?」
五戒を理解し切れていないのに、「アウト」と言う単語に妙に焦る僕に向かって、小鬼はまるで問診でもするかのように、淡々と質問を始めた。
「え〜、では、古森さんに質問です〜。まずは、不飲酒。これまでにお酒を飲んだことはありますか? はいか、いいえでお答えください〜」
「い、いいえ」
「そうですね〜。まだ、十九歳。法律で許されていませんね〜」
「う、うん」
「では、次〜。不邪婬。夫婦以外の人と肉体関係を持ったことはありますか〜?」
「いいえっ!!」
「ですよね〜。何せまだ、チェリーボーイですもんね〜」
チェリーボーイらしく、肉体関係と言う単語に顔を赤くしながら力強く発した僕の回答を、小鬼はしれっと流す。
「おいっ!!」
「あれ〜? 違いました〜?」
「い、いや……違わ……ないけど……」
「では、次に行きましょう〜。次は、ええと?あ、不倫盗ですね。盗みをしたことはありますか〜?」
「いいえ」
「捕まっちゃいますもんね〜。では、次。不妄語。嘘をついたことはありますか〜?」
「……ッはぃ……」
僕は小さく答えた。なるほど、そう言うことか。僕は五戒とやらを破っていたようだ。小さなウソ。些細なウソ。どうしようもないウソなら、これまでにいくらでもついてきた。項垂れる僕に向かって、小鬼はタブレットらしき端末を見ながら補足説明をしてくる。
「そうですね〜。古森さんのはじめての嘘は、五歳の時です〜。冷蔵庫にあったシュークリームを勝手に食べておきながら、お母上に食べていないと言いました〜」
「ハハッ、何だそれ。ガキだな」
渇いた笑いが口から溢れる。しかし、顔は強張り上手く笑えなかった。小鬼は、慰めにならない言葉を軽くかけてくれる。
「ほとんどの人はこの不妄語をクリアされませんので、お気になさることはありませんよ〜」
「……そう、なんだ……」
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