5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと

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 人と関わらないで八十歳まで生きたとしたら、それはとても寂しい人生になりそうだ。 「そなたのような、不慮の事故で天寿を全う出来なかった者は、本来であれば次の生へと変わる時に、その生の天命に加えて残ってしまった天命分も付与される事になるのだが……」 「次の生へと変わる時って、生まれ変わりですか? やっぱりあるんですね。生まれ変わりって。僕、そういうの信じてたんですよ」  期待に満ちた表情を浮かべる僕に、小野様はひどく残念なものを見るような視線を向ける。そんな視線に軽く首を傾げていると、脹脛(ふくらはぎ)をチョンチョンとされた。小鬼だ。小鬼も、なんだか残念そうな顔をしている。 「念のためにお伝えしておきますが、古森さんには、生まれ変わりの機会はありませんよ〜」 「え? なんで?」 「特別補佐ですから〜」  小鬼は当たり前のように、を推してくるが、どうして特別補佐になると生まれ変わりができないのだろうか。  その答えは、小野様が教えてくれた。 「冥界区役所の職員には、どの役職にあっても生まれ変わりの機会はないのだ。際限なく死後の者たちを次の世界へと捌き続けるだけ。つまり、私にもそなたにも生まれ変わりの機会はない」  そう聞くと、少しだけ残念に思う。でも、興味があるだけで、どうしても生まれ変わりたいわけではない。それに、小鬼たちと楽しく仕事をしていくのもありなのかなと思い始めてもいる。 「まぁ、生まれ変わりは出来なくてもいいです。少し興味があっただけなので。そう言うシステムがあるのだということが知れただけでもいいです」  僕の言葉を聞いて、小鬼がどこかほっとした表情を見せる。僕の期待に添えなかったことを気にしていたのだろうか。優しいやつだ。  冥界区役所の職員となった僕が、生まれ変われない理由は理解した。しかし、まだ疑問が残る。 「でも、僕は冥界区役所の職員になった途端、これから三十年間も研修しなくてはいけないんですか? ちょっと長すぎません?」  軽い非難の意味も込めて、小野様へと投げかけると、またしても残念な顔をされる。 「古森。そなたはまだ分からんようだな。現世とこちらとでは、時間という概念は共通ではない。現世で参拾年と聞けば長いかもしれないが、こちらでは、大したことない時間だ」 「そうか。体感時間の差ってやつですね」 「うむ。そうだ。研修後、こちらの時間にすぐに馴染むためにも、自我が凝り固まらぬよう、現世での未練をなくしてこい」
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