5.うじ茶のように渋く甘くすっきりと

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 医師等が簡易的な検査を終えて、先ほどまで規則正しい電子音をさせていた機械と共に部屋を出ていくと、僕はリクライニングのベッドを母に起こしてもらった。  目線が高くなると、ギプスに包まれた、いかにも痛々しい両足が視界に入る。そして、ギプスから出ている右膝には、五つの傷。僕が地獄の研修をクリアしたことの証である焼印が、古傷のようにそこにうっすらと付いている。  僕がその傷を眺めていると、それに気がついた母は小さく首を傾げた。 「あら? あなた、そんな所に傷なんてあった?」 「うん、まぁ……」  僕は、曖昧に言葉を濁す。 「もう、いつそんな傷作ったのよ。お母さん全然気がつかなかったわ」  そんなことを言いながら、母はベッドを起こした時に乱れた布団を直し、布団をポフポフと軽く叩く。心なしか母の表情が明るくなっていた。 「まぁでも、にいちゃんって意外と運いいんだな」 「えっ?」  布団を直す母を横目に、ベッドの横に腰掛けた弟は、どこか気の抜けた声を室内に響かせた。その言葉の意図するところが分からず、思わず弟の顔をマジマジと見る。そんな僕の目をしっかりと捉えて、弟は言葉を続けた。 「だって、店のガラス突き破るような車に轢かれて、骨折だけで済んでるなんて、超ラッキーじゃん! もし運が悪ければ、誕生日に葬式だったんだぜ」  弟の言葉を、母は瞬時に咎める。 「保! なんて事言うの!」 「なんだよ〜。にいちゃんが強運だって言ってるだけだろ」  母に叱られ、弟は鬱陶しそうに顔を顰めた。 「ぷっ」  そんな二人のやりとりに、僕は不覚にも吹き出してしまう。 「もう、衛も! 何笑ってるの!! お母さんたちが、どれだけ心配したと思ってるの? 保の言う通り、怪我で済んで良かったけれど、笑い事じゃないのよ!」  母は目に涙を溜めながら、僕のことも叱る。僕はそれがなんだか嬉しかった。 「うん。心配かけてごめん」  僕は嬉しさが抑えられずニヤニヤとしながら、母を宥めるための謝罪の言葉を口にする。 「にいちゃん、何ニヤニヤしてるんだよ。やっぱり、頭の打ち所が……」 「保! いい加減にしなさい!!」  またしても、母のカミナリ。それを僕はまた笑ってしまう。 「もう。なんなの衛も……」  ニヤニヤが止まらない僕を見て、怒っているはずの母の顔は、呆れ顔に変わる。 「母さんと保の顔が、また見られて嬉しいんだ」  僕の心の底からの答えは、どうやら母の涙腺を崩壊させたようだった。 「うぅ……もう……何言ってるのよ」
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