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「ミャー」  鳴き声に振り向くと、ちょっと離れた倉庫の陰から顔をのぞかせた、そばにいるねこが見えた。 「お前、そんなところに! というか、そこは居なくなる流れじゃないのか? 中途半端に身を隠すなよ!」  そばにいるねこはちょっと首を傾けて言った。 「そばにいるねこはかえります。もし、あなたがひとりでさびしくなることがあったら、また、そばにいるねこをよんでください」  俺は思わず返事に詰まった。もうすでに、寂しく感じてるよ。 「わかったよ! ひとりになる時のことは考えたくないけど、その時はタケルに連絡先を聞いて、必ずお前に電話するから!」 「でんわにでるのはでんわねこのしごとです。そばにいるねこのしごとは……」 「わかったってば! とにかく、お前は立派なねこだよ! またそばに居て欲しくなったら、俺は他のねこじゃなく、お前がいいよ!」 「ミャー」  そばにいるねこはひと声鳴くと、倉庫の向こうに姿を消した。今度こそ帰ってしまったようだ。どこに帰るんだかわからんが。  俺はスマホの画面に視線を落とした。  そっか……たった今俺がそばにいるねこに言った言葉は、ナツが俺に思ってくれていたことだったんだな。それなのに、俺にはずっとそれがわからなかったんだ。  俺はナツに返事を書いた。 『ありがとう。俺も会いたい。駅まで迎えに行くから、スーパーで買い物して帰ろう。ナツの好きなグラタン作るよ。それから、本当にごめん。これからは、ナツがいいって言ってくれた自分に自信を持つようにする。だから、ずっと俺のそばに居てください』  読み返すと恥ずかしくなるから、さっさと送信してしまった。  まるでプロポーズみたいだ。こんなこと、今までは言えなかった。でも、これがまぎれもない本心なんだ。俺がそばに居て欲しいのは、大切な彼女。ナツなんだ。  返信はすぐに来た。 『ユウヤのそばに居るよ。ユウヤもずっと、私のそばに居てね』  俺には彼女がそばに居る。  彼女にも俺がそばに居る。  これってなんて幸せなことなんだろう。  俺はもうナツを泣かせたくないし、ひとりになる気もない。  でも、たとえばこの先俺がやむを得ない事情で彼女をひとりにさせてしまう時は、そばにいるねこに仕事を頼んでみてもいいかもしれない。寂しい時は誰にだってあるし、そんな時自分のために寄り添ってくれる奴が居るっていうのは、嬉しいし、安心するよな。  だからさ、そばにいるねこ。  また、俺にお前が必要になった時は来てくれよな。  俺はクーリングオフなんてしないし、お前がクーリングオフされて落ちこんでいたら、その時は俺がずっとそばに居てやるからさ。   おわり
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