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振り返ると、猫……みたいなものがいた。
そうとしか言いようがない。そいつは確かに猫の見た目をしているが、俺よりでかい。しかも二足歩行。後ろ足で背筋を伸ばして立っている――猫背じゃないんかい。毛は生えてなくて、体の表面はツルツル。着ぐるみというよりロボットだ。つぶらな瞳に愛嬌があると言えなくもないが、こんなでかくて変なロボに話しかけられてもオカシイとしか思えない。
「そばにいるねこ? なんだそれ」
思わず返事をしてしまった。
「ねこはそばにいるねこです。そばにいるのがしごとです」
「はあ……?」
呆気にとられていると、猫のようなものは一歩二歩と俺に近づいてきた。
「ちょっ、なんだよ。こっち来んな!」
「ねこはそばにいるねこなのです」
自分よりでかい奴がのしのしと迫って来たら怖い。横幅もけっこうあるし、体重は俺よりずっと重そうだし。
そばにいるねこは俺の横に並ぶと、ぴたりと体をくっつけてきた。猫がすり寄る動きではない。アレだ、満員電車で吊り革につかまる人同士が狭くて肩が密着しちゃってる感じ。普通、こんな広々とした所でなる状態じゃない。
「……なにやってんの?」
「ねこはそばにいるのがしごとです」
「いや、意味わかんないし」
「ねこはそばにいるねこなのです」
コイツ、同じことしか言わねーな。
「あっ、もしかして、お前『代わりの奴』か? タケルに言われて来たのかよ?」
猫ロボットは首だけクルリとこちらに向けて言った。
「ねこはそばにいるねこです。そばにいるのがしごとです。しごとのいらいはでんわねこがうけます」
でんわねこ? 猫が増えたぞ。
「じゃ、お前はでんわねこに言われて来たのか?」
「でんわねこはでんわするのがしごとです。しごとのいらいをねこにつたえるのは、でんたつねこのしごとです」
ややこしいな! どんだけ猫がいるんだよ。
「とにかく、お前は仕事で俺の所に来たんだな?」
「そうです。そばにいるねこは、あなたのそばにいるのがしごとです」
タケルの奴、自分が面倒だからってこんな猫ロボットを寄こすとは。
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