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 俺は途方に暮れた。いくら失恋して落ちこんでいるとはいえ、こんな変な奴にそばに居て欲しいわけじゃない。そりゃ、誰かに話を聞いてもらいたいとは思っていたけれど。 「あのさ……お前は、そばに居る以外はなにをしてくれんの? 悩みとか聞いてくれるわけ?」 「ねこはそばにいるねこです。なやみをきくのは、じんせいそうだんねこのしごとです」 「なんだその猫は……重そうだな」 「ねこのたいじゅうはみんなおなじです」 「いや、そういう意味じゃなくてさ」  横並びにくっついて立ったままの俺達に、冷たい海風がビューッと吹きつけた。寒い! クソ、こいつが本物の猫だったら、少しはあったかかっただろうに。 「さみーな! お前、猫なら俺をあっためるくらいしてくれよ」 「ねこはそばにいるねこです。ひとをあたためるのはあたためねこの……」 「あーもうわかったよ! だったらせめて風よけになるように風上に立ってくれ!」  俺は猫ロボットの返事を待たず、自分が風下に移動した。そばにいるねこの背後に立つ位置だ。そばにいるねこはクルリとこちらに向き直って、俺と正面から向かい合った。海は見えず、目の前に立ちはだかる猫ロボット。どんな状況だ。俺は無言でそばにいるねこに背中を向けた。すると、そばにいるねこが俺を後ろから抱きかかえるように腕をまわしてきた。 「なにするんだ!」 「ねこはそばにいるねこです。あなたのそばにいるのがしごとです」 「だからって、こんなにくっつかなくてもいいだろ!」  そばにいるねこは両腕で俺をホールドしている。いわゆるバックハグというヤツ。女の子が彼氏にされたらキュンとするのかもしれないが、冷たくてツルツルしたでかい猫ロボットにされても俺は全く嬉しくない。
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