完璧ヒーロージャスティスマン!

1/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 私はデストロイヤー。悪の秘密結社の社長だ。  我々は日々怪人を派遣し、世界を混乱と恐怖で覆い尽くす活動をしている。最終的には全次元宇宙シェア1位を取るのが目標だ。  そして、我々の活動を邪魔する奴がいる。名前はジャスティスマン。噂でははるか昔からこの世界を守っているベテランヒーローらしく、派遣した怪人を皆殺しにするほどの力を持っている。割と最近この世界に新規参入した我が社にとっては非常に迷惑な存在だ。  さて、今日は私が直々に現場に出ている。本来であればオフィスで派遣されてきた怪人に指示を出し、優雅にデスクワークをするのが私の仕事だ。しかし彼のせいで怪人の死亡率が100%となってしまい、我が社は怪人業界でブラック企業認定されてしまった。そのため求人を出しても一切応募がなく、とうとう私自身が現場に出なければならなくなってしまったのだ。  現場に出るのは久しぶりだ。知名度を上げるための名乗り口上を叫ぶことや、強力な印象付けのために建物を爆破すること、市民を傷付けないように威嚇射撃することなど全てが新人の頃を思い出されて懐かしい。私の姿を見て逃げ惑う市民を眺めるのは、デスクワークが中心となってしまった昨今では味わえなかった爽快感だ。たまには現場に出るのもモチベーション維持には良いかもしれない。 「待てえぇぇい!」  そんな感じで気持ちよく営業活動をしていると、背後から鋭い怒鳴り声が聞こえた。その声の主がジャスティスマンだと姿を見ずともわかった。―もっとも、派遣した怪人は皆殺しにされているので、どのような姿かの情報は一切ないのだが。  どんなヒーローかワクワクしつつ振り返り、私は自分の目を疑った。  岩のようにゴツゴツとした皮膚。ワニを彷彿とさせる大きな口と鋭い牙。クマのような巨躯に、私の頭を簡単に握りつぶせそうな大きな手。手には刃物のようにギラギラと輝く爪が揃っている。それは私が今までに見たヒーローとは似ても似つかない姿だった。下手をしたら、私以上に怪人らしい姿だった。 「俺の姿がそれほど珍しいか?」  私の動揺を感じ取ったのだろう。彼は不敵に笑いながらそう尋ねてきた。私の返事を待たず、彼は続けた。 「見事な身体だろう。あらゆる攻撃を弾き返す皮膚。どんな敵も粉砕する拳と爪と牙。こう見えてかなり素早く動くこともできる。みんなを守るために、肉体改造を繰り返した結果だ。」 「はぁ、それは素晴らしいですねぇ。それほどまでになるには、色々と苦労もあったのではないですか。」  とりあえずの社交辞令的な返事をした瞬間、彼の目に一瞬驚きの色が見えた気がした。このままでは彼に殺されてしまう。生き残る可能性があるならと、自分の直感を信じて超低姿勢の営業スタイルで話を続ける。 「私としては自分の身体を手放すのはかなりの覚悟が必要かと感じますが、迷いはなかったんですか。」 「迷いがなかったと言えば嘘になる。しかし多くの市民をお前たちのような奴らから守るためには仕方がなかった。」  彼は自慢げに胸を張って言った。その様子が少し癪だったので、若干の棘を含ませつつ言ってやった。 「ははぁ。本当に『正義』のために生きているって感じですね。私はいくら人の為とは言っても、そのような姿にはなりたいとは思えませんもの。」  その瞬間、彼の眉がピクリと動いた。逆鱗に触れてしまったかと一瞬ヒヤリとしたが、彼はそのまま問答を続ける。 「貧弱な身体を捨てるだけで多くの人が褒め称えてくれるぞ。それでもお前は人の為にこうはなりたくはないと言うのか。」 「ないですね。人の為と言えば聞こえはいいですが限度があります。あなたのそれは、私からすれば限度を平気で超えてしまっている行為です。」  正直、この返答は大きな賭けだった。彼の価値観を真正面から否定しているので、激昂しそのまま殺されても文句は言えなかった。なので「まぁ、そんなだから私は悪の組織なんかにいるんでしょうけどね。」と苦し紛れの言い訳も添えてみた。  彼は全身をブルブルと震わせ、私の両肩に掴みかかってきた。あぁ、私の人生もここまでかと覚悟を決めた脳みそに彼の声が響く。 「やはりお前もそう思うか!」 「…へ?」  意外過ぎる言葉に変な声が出てしまった。彼は私の両肩をバンバンと叩きながら大声で笑う。―冗談抜きで痛いのでやめてほしい。 「私も正義の為ならと迷いもなく肉体改造をしたのだが、ある日ふと自分がなぜここまでやっているのだろうと思ってしまってな。ずっとこの悩みを聞いてくれそうな人物を探していたんだよ。」  彼は大きな口を開けてガハハと笑う。私は高速で首を横に振る。 「いえいえいえいえ。今更こう言うのも変ですけど、私、敵ですよ?敵に人生相談してヒーロー的にはOKなんですか?!」 「構わん。むしろ市民に相談なんてしようもんならヒーローとしての信頼問題になってしまう。君なら後腐れもなさそうだし大歓迎だ!」  腕時計をチラリと見る。定時まであと1時間。この雰囲気は残業コースだ。いまだに肩を強く叩かれながら無意識に溜め息が漏れた。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!