桜の花 咲かない木 他一編

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「ね、おばあちゃんなんだか楽しそう」 「あら、ほんとうねえ、よかったわねえ」  棺のまわりに集まった親族は、ほほえみを浮かべているようなおばあちゃんの顔を見ると、みんなとても優しい気持ちになった。  享年89歳。大往生と言って良い幕引きである。葬儀場の大きな窓からは穏やかな春の陽がさんさんと降りそそぎ、おばあちゃんの旅立ちを、暖かく祝福しているかのようであった。  窓の外には桜が幾本も立ち並び、その花弁をまんべんなく広げている。風が吹くたび舞い上がる桜吹雪の中に、おばあちゃんの笑顔が透けて見えるような気もする。 * 舞い踊る桜吹雪のその中の 花びらひとつひとつに想いは宿る その姿 たおやかに 空に舞い そのすべて きらきらと 輝いている できること・できないこと 会える人・会えない人 かなしみとくるしみ  しあわせとあたたかみ すべてを包みやさしく覆って 桜の花びら空にとけこんでゆく 果てしないきらめきを求めながら そらへ… (了)
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