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その日を境に、健一は必死に言葉のナイフを抑え込むようになった。
どれほど大好きな相手だって、嫌なところの一つや二つはある。だけど本気でその人のことを大事に思うのなら、ダメな部分も含めて受け入れるべきだ。受け入れ、胸の内で消化し、飲み込む。
なぜなら気軽に口にした一言が相手を、そして自分自身をも傷付けて、後悔をしたところでもう遅いのだから。
矯正を始めて三ヶ月。健一は京子だけでなく、学校の友人たちも無意識に傷付けないように、常に気を張っていた。
「あんた、最近は普通に学校の奴らと話すようになったよね」
「そうだな。あれから言葉には気を付けているから、ちょっとずつ信頼を取り戻せているのかも」
だけど、落とし穴というのはえてして、このような気が抜けた隙を狙って、待ち構えているものだ。
「本当良かったよ。あたしらただでさえ周囲から浮いてるし、これ以上ビビられたくなかったからさ」
「ははは。確かに、俺も怖がられてたけど、京子も、大概目つき悪いもんな」
言ってからすぐにしまった、と思った。せっかく、悪癖が直りかけていたのに。
「京子!」反射的に駆け寄る。あの日の京子の悲痛な表情が、強烈にフラッシュバックした。
「大丈夫か京子。痛くなかったか?」
京子はきょとんとした顔で首を傾げた。その顔を見た時、健一はなぜかはっきりと理解した。
言葉のナイフは「錆びた」のだ。おそらく、長い期間使われなかったから。
少し遅れて、京子も健一に起きた変化を察したようだった。目に涙を浮かべて胸に飛び込んだ彼女を、健一は両腕でしっかりと抱きとめた。
良かった、嬉しいよ、と子供のように泣きじゃくる京子。
健一はそんな彼女の肩を掴み、ゆっくりと引き離した。彼女の射貫くような視線が、健一のそれと熱く交錯する。
思えば、いつも目を逸らしてばかりの京子と見つめ合うのは、これが初めてのことだったかもしれない。
二人の顔は磁石のように強く引かれ合い、そして……。
「痛たたたたっ!」
両目が潰れたような激しい痛みが走った。
そして、訳も分からず地べたを転げ回る健一に向かって、「二丁拳銃」は申し訳なさそうに告げたのだった。
「黙っててごめんね……。あたしもその、見つめ合うと、出ちゃうの。『視線のレーザービーム』が」
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