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「冬華ちゃんを忘れたら、お前のことも忘れるんじゃないかと思った。だからあの飴で冬華ちゃんの記憶をつなぎとめた。おまえを、忘れないために」
姉を忘れないように記憶をつなぎとめたのは、私を忘れないため。彼は姉さえも繋ぎにしたのだ。私を忘れないために。
「やっと会えたと思ったら、お前は覚えてないし」
まぁ、あんな一瞬じゃ当たり前か、と言い笑う。
「少しは話したけどほとんど初めましてだし、それならって思って」
初めましてって言ったんだ、とさっきの笑顔から一変悲しそうな顔で呟く。
「会えただけで嬉しかったけど、仲良くなって一緒にいるうちに足りなくなった」
「……お姉ちゃんが好きなのかと思った」
「やっぱり。お前がそう思ってるんじゃないかと思った。昨日、悲しそうな顔してた」
バレてた。話の内容が割と衝撃的で表情なんて気にしてなかったからそのまんま顔に出ていたらしい。
「冬華ちゃんはあの時すっごい世話焼いてくれて、だから俺にとってもお姉ちゃんみたいな感じ」
独占欲は強かったけれど、面倒見はよかった。遊んでいたと聞いた時から、きっと彼にも世話を焼いていたのだろうとは思っていた。
「あのとき、冬華ちゃんが戻ってくる前に急いで部屋に戻ったろ?それみて、あんまり仲良くないのかなって思って。だから中々聞けなかった」
嫌な思い出とかあったら思い出させるの嫌だったから、とどこまでも優しい。
「冬華ちゃんがいないのは悲しいしショックだけど、杏華が生きててよかった」
本当に安心したように言うから、耐えきれずに涙が頬を伝う。
困ったように、でも優しく笑って彼の冷たい指が私の涙を拭う。
「……好きだよ」
「っ、……だいすき」
飴玉は、私と彼にとって大切な人の記憶を繋いで幸せを運んできてくれた。
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