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顔を上げた彼に母がお茶をだす。
すみません、と言った彼は静かに話始めた。
「俺が小学一生の時の夏、冬華さんに出会いました」
公園で一人で遊んでいた時に、会って何日も何日も遊んだと言う。
「一度だけ彼女が家に誘ってくれて、……実は杏華にも会ったことがあるんだ」
私の方を見てそういう彼に、今度は私が呆然とした。
「……あのときの…?」
困ったように笑って頷く彼。
夏は毎年おばあちゃんの家に家族で遊びに行っていた。私が小学一年生の時の夏休み、姉は一人で外に遊びに出た。私も誘われたけれど、暑くて外に出たくなくて断った。夕方頃に楽しそうに帰ってきた姉は、それからこっちに帰るまで毎日同じ時間に遊びに行っていた。
何日目かにリビングに飲み物を飲みに行った時、知らない男の子が一人いた事があった。
姉はトイレに行っていたのか居なくて、「初めまして」と自己紹介をして、少しだけ話した。もっと話したかったけれど姉が戻ってくる前に部屋に戻った。
そうか、あの時の。
「次の年もその次の年も、夏休みはあの公園に行ったけど会えなくて」
その年の冬におばあちゃんは亡くなった。おじいちゃんと過ごした家にいたいからといって、ずっと一人であの家にいたおばあちゃん。お葬式を終えてからは一度も行っていない。
「会いたくて、忘れたくなくて……彼女が食べていた飴玉を俺も食べるようになった」
なんだ、そういう理由だったんだ。
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