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「冬華さんがこっちに住んでいるのは知っていました。その時聞いたから。でも、あの時の俺は一人でここまで来ることは出来なかった」
小学生には無理だろう。だから、飴玉で記憶をつなぎとめていた。
「高校生になって、会えるかもしれないって思ってこっちの高校を受けました。でも、会えなかった」
姉に会いに来た。彼は姉に会いたくて、それだけでこっちにきた。
「杏華さんと会えたのは本当に偶然で、でも会ったらすぐ分かった。あの時の子だって。名前も覚えていたし。...そしたらやっぱりそうだった」
俯かせていた顔を上げた彼は涙は流していなかったが、泣いているようだった。
話し終えた彼は最後に一言、突然すみませんでしたと言って帰っていった。
部屋に戻って、行き場のない気持ちをどうすることも出来ず、一人涙を流した。
好きな人は、自分の姉が好きだった。
そんなの敵わない。
初めましてなんて、嘘だった。彼は覚えていた、私のことを。それなのに初めましてと言った。なぜかは分からない。姉と会いたいなら最初から話した方が良かったはずだ。
飴玉も、姉を忘れたくなかったから。
あぁ、もう
「いやだなぁ」
涙が、止まらない。
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