そうして私は悪役令嬢になった。

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 夢を見た。  私は壁に向かって椅子に座っていた。正確には、椅子に縛り付けられて身動きもならない状態だった。身体に食い込む荒縄が、椅子と私を一体にしていた。  背後で火が燃えているのを感じた。ぱちぱち、ごうごうと言う音と、熱と、何より正面の壁に投げかけられる私自身の影が、それを教えていた。       だがその影は奇妙だった。影は私に顔を向けて(それはあたりまえだが)、ゆったりと脚を組んで座っていた。椅子に縛られている私とは相反した、くつろいだ姿勢だった。  そして私は、しばらく忘れていたことを思い出した。  私の影は私ではないのだ。 「随分いい趣味をしているのね」 「荒縄のことか。それをやったのは私ではないぞ、アーデルハイト。汝自身だ。汝の魂を縛り付ける汝の心の、それは形象化だ」 「難しいことを言ってもごまかされないわよ、私を離して。自由にして」 「止したがよかろう」 「――?」 「私は汝の欲望を現実のものとする。だが、思い出してみよ、汝は眠る前に何を思った?」  一日中私を苛んでいた、羞恥と自己嫌悪と失望が一気に蘇った。私は消えてなくなりたかった。今すぐ死にたいと思った。 「こうした場合、私は確認せねばならぬ。アーデルハイト、汝は本当に死を望むか?」  背後の火がつかのま激しく燃え上がり、炎の舌が私の頬を撫で髪を焦がした。 「死後の行く先は選ぶことができないが、そのことを認識しているか?」 「……地獄だというの?」 「それは人間の行くところだ。汝らにそんなものはない」  悪魔の声には暗く不吉な響きが満ちていた。 「速やかな死を、私は運ぶことができる。だが真正それを望まぬならば、正しく欲望することだ。何がほしい? どうなりたい?」  高慢で意地悪なコンスタンツェの顔が、おどおどとしてコンスタンツェに言いなりのブリュンヒルデの顔が、冷酷で無情な王子の顔が、つぎつぎと脳裏をよぎった。 「……勝ちたい」  私はつぶやいた。 「……負けたくない!」 「何が欲しい?」 「ぜんぶを!」  影が、にやりと笑ったような気がした。 「それでこそだ」  悪魔は言った。 「生きろ、戦え! 世界をねじ伏せろ! 汝が望むとおりの自分になれ!」    そうして私は、悪役令嬢になった。   
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