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私達が生活しているのは、ゴーメンガーストの一割ほどの区画にすぎない。そこでは、ゴーメンガーストは眠っている。
残りの九割は目覚めている。彼女は生きてうごめく迷宮である。先週までは壁しかなかった場所に、あるはずのない廊下がどこまでも伸びていたり、昨日まであった階段が、影も形もなくなっていたり、あるいは、今入ったばかりの扉が、音もなく消え失せていることもありうる。
その他数え切れない危険がゴーメンガーストには溢れているわけだが、悩ましいのは、安全地帯と危険な領域の境界じたい、不安定に動き続けていることだ。
六歳だった。
私達三姉妹がそのとき行っていたのは、他愛のないかくれんぼだった。
三人きりの姉妹のあいだで順位を競うのも馬鹿げたことだが、その日、私は誰が鬼になっても何度繰り返しても真っ先にみつかってしまい、コンスタンツェにさんざんに笑い者にされた。憤慨した私は遠くに隠れ場所を求めた。それとは知らずに、侍女たちと兵士たちに守られた、安全地帯の外側
に出てしまったのだ。
高い窓からオレンジ色の光が注ぎ込む、長い長い真っ直ぐな廊下だった。
それまで暮らしていた場所では窓というものじたい存在しなかったから、私は好奇心にかられたが、残念ながら当時の私の身長では、窓外に広がる世界を見渡すことはできなかった。当然私はその廊下がすでに外であることに気づいていたが、コンスタンツェへの敵愾心が、不安に勝った。私はそこに隠れることに決めた。
ここならきっと見つからない。コンスタンツェ(とそしてブリュンヒルデ)がごめんなさいを言うまで出ていってやらない。
そう決め込んでいた私は、コンスタンツェの思惑がどこにあったのか、少しも気づいていなかったのだった。
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