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オレンジ色だった空が血の赤に染まり、赤紫色になり、やがて色そのものが消えていく。私は怖くなった。安全地帯への出口は明るく灯がともり、真正面に見えていたから、まっすぐ歩いていけば、何事もなかったかのように帰っていける。そのはずだった。
しかし、私は歩きだそうとした矢先、足を背後に引っ張られるような力を感じて、何もないところで転んでしまった。
膝をすりむいてしまったが、より強い痛みが両足のつま先からかかとにかけて脈動していた。
痛みを発する箇所に触れようと膝を曲げると、足の裏の皮が剥がされるような激しい苦痛に襲われた。
膝を伸ばすと苦痛は薄らぐ。たしかに、廊下の奥へと私の足を引っ張る力が存在している。私は痛みを発する自分の足から、少しずつ視線を上げていった。
出口から射す光によって生じる影が、長く長く床に伸びている。その影は遠くで、石像のひとつと重なっている。
石像はすべて廊下の端に整列していたはずなのに、その石像だけが回廊のど真ん中にある。
巻角の生えたヤギの頭、人間の上半身、黒い翼、蹄の生えた脚を東洋風に組んで座っている。そしてその股からは、竿状のものが生え出て、天井をさしてそそり立っている。
魔神像であることは当時の私にもわかった。ついさっきまで、そんなものがそこになかったことも。
悪魔の影は、私の影と重なっていた。
壁に写ったその影は、私の影をしっかりととらえ、両手で握りしめているように見えた。
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