そうして私は悪役令嬢になった。

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そうして私は悪役令嬢になった。

 前兆はあった。  日曜ごとの礼拝で、王子と視線があうことが多くなっていた。  王子はそのとき12歳だった。美しい少年になっていた。  つややかな白い肌にはニキビひとつなく、金髪の巻毛は天使のようだった。彼を見つめずにいることは不可能だった。  私たちも、12歳相当の娘に成長していた。金髪のコンスタンツェも、燃えるような赤毛の――少しそばかすが目立ちすぎるブリュンヒルデも、女らしい体型に変わっていこうとしていた。だが王子はそのとき、私に目をとめたのだ。  家庭教師のディートリンデを通して、王子から私に伝言が来たのは翌日のことだ。   絵のモデルになってほしいという。  私は舞い上がった。  異国の農民の格好をして、林檎か水差しを手にポーズをとる、あるいは古代の女神だとか神話の登場人物の格好をして、天秤だとか模造の剣を持つ自分を想像して、木炭を手に真剣な眼差しで私とカンヴァスを交互に見つめる王子を脳裏に描いて、一人で緊張したり赤くなったりした。    なんといっても私は、王子と一度も話をしたことがなかった。伝言をよこされたのも、それが初めてだった。  無理もないことだった。  私は王子のことを、何も知らなかったのだ。    
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