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ここは城塞迷宮ゴーメンガースト。
私達の話をしよう。
ここは城塞迷宮ゴーメンガースト。荒れ地の只中にうずくまる巨大な古代の建造物だ。周辺に街道はない。港も川もない。小さな村やオアシスさえもない。私達はこの名付けられてもいない荒野の只中に孤立していて、周辺にどんな国があるのか、どんな人々や生き物が住んでいるかも知らない。私達は外の世界に無関心で、没交渉に生きていた。
ゴーメンガーストの下には、さらに古い時代の遺跡が埋もれている。パピルスや羊皮紙のスクロール。持ち運ぶこともできないような大きな写本。地下三層にわたる広大な空間に、そうしたものが無造作に積み重ねられている。古代の図書館と信じられているが本当は何なのか誰も知らない。その大半は、私達には読むことのできない文字で書かれているためだ。異国のものもあれば、古すぎるものもある。そしてそれらの多くに、強力な魔法が満ち満ちている。
たとえば、第二層の西南区画にあった数冊の四つ折り判。王子の四歳の誕生日に、王が自ら三冊を選んで地上にもたらした。王子が一冊目を開くとコンスタンツェが、二冊目を開くとブリュンヒルデが、三冊目を開くと私、アーデルハイトが現れた。
当時のことなどもちろん憶えてはいないが、皆ちょうど王子と釣り合う、四歳ほどの女児の姿で、きちんと服をまとっていたという話だ。
第二層の別の区画にはまた別な種類の本があって、開くと侍女たちが現れると言う。
そんなふうにして私達は、すべてを魔法でまかなっている。私達の誰も、城壁の外へ行ったことがないし、外から来た人にも会ったことがない。もしかしたら外には誰もいないのかもしれない。荒野が永遠につづいているだけかもしれないし、あるところで突然世界の果てになって、周囲は金色の額縁で囲まれているのかも知れない。まるで、絵の中の城そのもののように。
そうだとしても私は驚かない。私達は、魔法の中で生きている。
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