里帰り

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里帰り

 フェリーが水面をかけるたび、水の跳ねる音が聞こえる。船体へと打ち寄せる波は、わたしを島から遠ざけるように、強く激しくぶつかった。  フェリーは波に倒されまいと踏ん張る。そのたびに鈍いエンジンの音がデッキに響いた。わたしはフェンスにしがみつき、そのエンジンと波の音にかき消されるほど小さく、一つの言葉を吐き出す。 「……うそつき」  それは、中学時代の恋人への呟き。とおに終わった恋の幻想(ゆめ)への囁き。  別に、中学時代の子どもじみた約束を信じていたわけじゃない。それでも心のどこかでは、彼が待っていてくれることを期待していた。そんなこと、あるはずがないのに。  島を出てから五年。わたしは中学生から二十歳の大人になった。お酒だって飲めるし、タバコだって吸える。もちろん結婚だって、相手が居ればできるのだ。  わたしだって、この五年の間に、彼氏の一人や二人くらいはいた。だから中学時代の元彼に、未練を感じることなんてない。そんな必要、ないはずなのに。 「結婚しました」と書かれたハガキを受け取った時、ふと思ってしまったのだ。と。  (よう)の隣にいるのが、見知らぬ女性だったからじゃない。、事後報告なのか。結婚するならすると、直接わたしに連絡してほしかった。  だって、わたしたちは……。  言葉を交わさなくても、互いを理解し合える関係だったじゃない。
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