里帰り

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 フェリーの作る波を見つめていると、けたたましく警笛が鳴り響いた。もうすぐ島に到着するらしい。  フェンス越しに景色を眺めると、遠くからも見えていた島の緑が、鮮やかな色彩をはなっていた。その一つ一つの色の違いが、こんな最果ての島にも季節があることを伝えている。  高校進学のために島を出て、わたしがここに帰るのは初めてだ。「夢を叶えるまでは故郷に帰らない」そう決めていたから。  下船の支度を促すアナウンスが流れると、船内が急に慌ただしくなった。わたしは車を使わず徒歩で乗船したので、ゆっくりと降りる準備をする。気楽な一人旅。なにも気にすることはない。  フェリーが島に到着すると、観光客とともに故郷の地へと降り立った。  手続きを終えてフェリー乗り場を抜けると、足の裏をくすぐるような砂の感触がした。履き慣れたはずのハイヒールが、砂に沈んで歩きにくい。これから歩いてレンタサイクル屋に行き、自転車に乗ろうと思っていたのに。  わたしはため息をつくと列から離れ、持っていたスニーカーに履き替えた。郷に入っては郷に従え。島に行ってはスニーカーを履け。  田舎や島の徒歩をなめてはいけない。未舗装の道は予想よりも歩きにくいからだ。徒歩十分の道のりを倍ほどの時間をかけて歩かなければならない。  島の人々にとっては十分も三十分も大差ないのだ。ここでは時間も風も、ただ(ゆる)やかに流れ続けるだけ。
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