これが田舎

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これが田舎

 まだ春には時間があるというのに、この島は暖かい。暑いといってもいいほどに。時折吹く風が潮の匂いを運んで、鼻の奥と胸の真ん中あたりを刺激した。ベタついた空気は熱を含み、皮膚や髪にからみつく。  涼を求めて海を眺めると、空と海の色が同じ青だった。海は空を写しているんじゃなくて、二つは元々同じものだったのではと、ふと思う。  ここに居たい側と、どこかに行きたい側が、二つに別れただけ。わたしと(よう)みたいに。  肌に汗が浮かぶころ、貸自転車屋に着いた。店のおばちゃんはわたしを見ると、目元をしわくちゃに細めて嬉しそうに微笑んだ。 「早紀(さき)ちゃん、里帰りかい?」  この島では、みんな顔見知り。知らない人は、みんな観光客(よそもの)。 「まあ、似たようなものです」  ヘラヘラと作り笑いを浮かべながら、この島の良くも悪くも閉鎖的なところが苦手だったことを思い出した。 「お父さんとお母さんには、もう会ったかい?」  おばちゃんがシワシワの顔に、好奇心旺盛な瞳を浮かべた。  わざわざ聞いてはくるが、わたしがまだ両親に会っていないことをおばちゃんは知っている。わたしが島に帰ってきたことだって、明日には島中の人が知ることになるだろう。それが、田舎。
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