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借りたばかりの自転車にまたがり、見知った道を走る。空を切るようにスピードを上げると、ベッタリと重くなった空気が体から剥がれ落ちていった。
舗装されていない道はガタガタしていて走りにくかったけれど、都内のように人が居るわけではない。人っ子一人居ない道を走るのは、気持ちが良かった。
潮の匂いを感じながら、元彼の陽の家へと向かう。元彼の家といっても、結婚を機に引っ越したので、行くのは今日が初めてだ。
一応、電話で連絡したし。平日だけど、家に居るはず。
陽は高校を卒業してすぐ、漁師になった。今日は絶好の釣り日和。もしかしたら漁に出ているかもしれない。
だけどもし、陽が漁に出ていたら。わたしはどこで、陽の帰りを待てばいいんだろう?
田舎には待ち時間を潰せるような娯楽施設も、必要なものを揃えられるようなコンビニすらないのに。
そんな事を考えながら地図アプリを頼りに、陽の新居を目指した。
都内では見かけないような大きな平屋が並ぶ集落で、地図アプリが目的地への到着を知らせる。
「地図によると、ここなんだけどな」
たどり着いた場所には、外観の同じ建物が並んでいる。
「屋根の色くらい、聞いておけばよかった……」
間取りも外観も、ほぼ同じ建物の群れ。この中から、陽の新居を探す。これは、なかなか難しい作業になりそうだ。
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