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約束
「陽、とても大事にしてたんですよ?」
愛依さんがキャンドルホルダーの一つを手にとった。すき間なく並べられたシーグラスの色鮮やかな輝きは、彼女の手によく馴染んでいる。
「私は、早紀さんが羨ましいです……」
わたしにはその言葉の意味が分からない。確かにわたしは島育ちで、当たり前のようにシーグラスを集めていた。だけどそんな事くらい、海に行けば誰にだってできる。もちろん、愛依さんにだって。
わたしが黙っていると、愛依さんが言った。
「陽と、約束したんですよね? 一生、大切にするって」
その言葉に、ドキリとした。愛依さんは知っているんだろうか? わたしと陽が付き合っていた事。そして陽がわたしに「待ってる」と言ってくれた事を。その約束が守られる事は、なかったけれど。
「意地悪な言い方で、ごめんなさい。ただちょっとだけ、羨ましくて……」
ううんと首を横に振る。別に、陽が待っていてくれる事を期待していたわけじゃない。たとえばの話だけれど、夢を諦めてしまった時、帰ることのできる場所がほしかっただけ。
「早紀さんは、まだ持ってるんですか?」
話を切り替えるためか、明るい声音で愛依さんが言った。
(まだ、持ってる……?)
なんの、事だろう。答えがわからず、わたしは考えを巡らせた。
それは、諦めきれない夢?
それとも、陽への恋心?
正直、今のわたしはどれひとつとして持ち合わせていない。そんなもの、とおの昔に無くしてしまったから。
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