嘘壺

1/1
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ

嘘壺

 嘘壺(うそつぼ)というのを知っているだろうか。  人は大きな嘘、小さな嘘をつく。  嘘壺は、嘘をつけばつくほど幸運が溜まるというもの。  それを三日間続け蓋を開けると、期間内についた嘘の分幸運が訪れる。  そんな素敵な話に興味を持たない人間は、嘘をつくことができない人間だけ。  でも、嘘をつけばつくほど溜まる幸運に目が眩むものはいる。  そして、それに最適な人間もこの世には沢山存在する。  お店にチリンと鈴が鳴る。  どうやら今日も店に一人の客人がやって来たようだ。 「古い店だな。おい、ここに嘘壺ってのはあるか」 「ええ、ございますよ」  老婆は棚に並べてある無数の壺から一つを男に差し出した。 「この壺は――」 「説明ならいらねーよ」  それだけ言い残すと男はご機嫌に壺を持って店を出ていく。  壺に値段は存在しない。  つまりはタダということ。  さてさてこの男がどうなるのか見てみましょうか。 「これにサインして契約するだけだから簡単でしょ」  男はいつものように詐欺を働き嘘をつく。  そのため簡単に嘘壺は溜まっていく。  悪い商売をする人にとって、嘘をつくなんて簡単なこと。  そして四日目の朝。  男は何の躊躇いもなく壺の蓋を開けた。  毎日嘘をつき続けてる自分なら、三日もあれば十分。  そう思っていたのだが、蓋を開けてもなんの変わりもなく壺の中もから。 「あのばばあ!! 騙しやがったな」  男は壺を床に叩きつけると、あのお店に向った。  チリンと響く鈴。  店にはあのおばあさんの姿。  男はドカドカと近づきおばあさんの胸ぐらを掴む。 「おいばばあ!! よくも騙してくれたな」 「私は騙して何ていませんよ。もう貴方には壺の効果が出ているはずです」  幸運はこれから来るということなのか、男はおばあさんから手を放すと舌打ちをして店を出ていく。  その瞬間外から聞こえた大きな音に人のざわめき、救急車のサイレンを聞き、おばあさんは口元に笑みを浮かべただ一言つぶやいた。 「ほら、効果が出たでしょう」  嘘壺、それは嘘をつけばつくほど幸運が溜まるというもの。  でも一つ注意点がある。  それは、本当の事を一度も言ってはいけないということ。  幸運があるなら不幸だってあるもの。  人間は嘘だけをつき続ける事なんて出来はしない。  三日間の間に一つでも本当の事を言えば、持ち主に不幸をもたらす。  その不幸は、嘘壺に溜まった嘘の分だけ。  タダより高いものはない。  上手い話には裏があるというが、男は一体どのくらい嘘を溜めていたのか。  もし壺一杯に溜めていたら――。 ─end─
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!