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橋の上から
橋を下りる男を、私はその姿が闇に消えるまでじっと眺めていた。
終電もとうに通り抜け、闇の増した陸橋には私だけが残った。
「……はあ」
欄干にもたれ、深く大きなため息をつく。
「やる気無くしたわぁ」
私は今夜、ここから飛び降りようとしていた。それをやる気と称するのも何だかおかしな話だけれども。
こんな夜中に覚悟を決めてやってきたというのに、たどり着くとそこでは男の人が空き缶を追いかけていた。
生気を失った顔に目的が一緒であることを察し、先に飛ばれることを恐れた私は、この人をここから離さなければと思った。たまたまポケットに入っていたクーポン付きのレシートで、男を追い出すことを思い付く。
とっさに思い付いた拙い作戦だったが、結果男は生きてこの橋を下りていった。“ありがとう”という言葉を残して。
「……生かされてしまったのは、私のほうなのかも」
生気を取り戻した男の嬉しそうな顔が、頭から離れなかった。
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