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ドアには結婚当初、
彼と作った苗字のネームプレートが掛かっていた。
幸せだった思い出がにじみ出ている。
ドアを開けて玄関に入る。
そこには変わらずサボテンがちょこんといた。
そして、緑色のトゲトゲした体の上には
小さなピンク色の点のような花があった。
中に入ってドアを閉める。
頭のてっぺんに咲かせた花はとても小さく、可愛いらしかった。
でも、なんだか堂々としていた。
あいつと目線の高さを合わせる。
「お帰り。よく頑張ったな、バカ垂れ。」
そう聞こえた、ような気がした。はっとする。
いつもの低い声だけど優しくささやくように言った。
「遅くなってごめんね、ただいま。」
涙が知らぬ間に流れていた。
乾き切ったと思っていた涙がまた一筋流れる。
目の前はどんどんぼやけてきて込み上げてくる感情とともに涙は止まらなくなった。
私は久しぶりに泣いた。栓が抜けたように玄関でウォンウォン声を上げて泣いた。
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