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いびつ
「―――、だね…」
仰向けで眠っていると掛けられた声で、夢から覚めた。
目を開くとそこには見慣れた顔。
まだ幼さを少しだけ残した…けれど、自分と2つしか変わらないΩの少年。
「――歩、いま何時…?俺、どれくらい寝てた?」
「2時間くらいじゃない?」
なんだ。随分眠った気がするのに、仮眠程度にもなっていないのか…と、かすかに薄暗くなった外を見た。
「さっき”可哀想だね”、って言った?」
「…そんなことより、ご飯つくったよ」
あ、話題をそらされた。
けれど彼が嫌いなはずの俺を憐れんでくれるはずがないので、歩が自身に言っていたのだろう…
そうゆう事にした。
「歩が進んで夕飯を作ってくれるなんて、嬉しいな」
あまりの珍しさに嬉しくて口元が釣り上がる。
「この前みたいに、味噌汁に洗剤入れてない?」
「…気づいてたんだ?」
「さすがに気付かないワケないでしょ」
あれは酷い味だったなぁと薄ら笑うと、苦虫を潰したような顔を見せた。
悲しいなぁ…
「味覚ないのかと思ってた」
「酷いなぁ。愛がなせる技じゃん。それに途中でお椀奪ったあげく謝ってきたのそっちだから」
血相を変えて「ごめん…調味料間違えた」ってあたふたしてさ?
どんな表情や感情でも自分に向けられていると思えば気分が良い。
「ねぇ、もう一回あの顔が見たい」
あまり怖がらせないようニコニコしてるのに、やっぱり浮かない顔をしている。
「それとも、怒って欲しかった?」
と俺は首をかしげる。
いつものように殴ればよかった?
腹を押さえて涙ぐむまで蹴ってやったらよかった?
俺が触ろうとするだけで酷く怯えてる癖に…。
だから飼いネコに引っかかれたくらいに思ってる俺の広い心が分かんない?
あぁでもこれ以上言ってしまうと、彼は泣く。
それはあまりにも可哀そうだから黙ってテーブルに座り、先ずは味噌汁に口をつけた。
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