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「なぁ、俺のダチに何してんの?」
後ろから聞こえたのは苛立ちを隠さない声。
「……ひっ」
あ?と偉そうな声をあげてたくせに振り返った自称α様だが、微かな威圧を感じて小さな悲鳴を上げた。
あぁ、ほんとにαだったんだ…。
青ざめた顔に、昔の自分を思い出してちょっと可哀想になってしまう。
「…菊池、顔怖いから」
「あ…、悪い」
大学の外で待っていたのは、他ならぬ菊池雅之本人。
高校の時よりさらに背が伸びて大人びた風貌になっていた。そして相変わらず綺麗に整っている顔立ちだ…腹立たしいほどに。
「歩の友達なら悪かった。訓練してるんだけど、ちょっと俺って心が狭いからさ」
「———や、その、俺は…!なんでもありませんから!!」
そういって慌ただしくあのαは逃げ去った。
「………威圧出してた?」
「うん。ちょっと、だけ」
そう言うと菊池は顔を覆い、はーっと後悔したようにしゃがんだ。
たぶん、さっきまでの会話は聞こえてなかったのだろう。無自覚に他人を威嚇して反省してるのか、本当つらそうだ…。
「や。でも助かったから」
「本当に?」
じっ…と見つめてくる瞳がうるうるしてて可愛いっ
見た目はちょっと迫力ありすぎて厳ついというのに…
「ほんと。しつこいナンパみたいなものだったから」
「なら、よかった」
サンキューという言葉に、ほっとした顔を見せる菊池。
菊池と会うようになったのは、最近のこと。
見守ると言ったからには何度も更生施設に手紙を送った。
『元気か?』『周りに迷惑かけてない?』そういった内容だったけど…
菊池からの返事は一切なかった。
もしかすると、してはいけない。という決まりがあったのかもしれない。
菊池が施設をでる3か月前に、ようやく連絡が来て再会したのが先月。
これは、いわゆる吊り橋効果なのかもしれない。
ちゃんと自分と向き合い成長した菊池は
信じられないくらい穏やかで大人びていた。
本当に頑張ったんだと……努力は認めてやりたい。
「……菊池は、就職活動。うまくいってんの?」
大学前は目立つから近くの公園に移動した。
「んー高校出てないから、ちょっと厳しいかも」
「そっか…」
菊池の親は、結局なんの支援もしなかったらしい。
あの出来事について菊池の親からは定型文のような謝罪の手紙と、慰謝料はいくらだ?と聞かれる始末。
俺の両親は大激怒した…。
分かっていたけどクズすぎて、俺もどうしたら良いのか分からないほどだった。
「今は金ねぇけど、そのうち通信にでも通うつもり。……できるだけ、歩のそばにはいたいから」
「……そっか」
「ん、照れてる?なに、どうしたの?」
「別に!照れてないっ!!」
こういう意地が悪いところは変わらない。
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