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「ねぇ」
「ん?なに?」
「俺、もっと頑張るから…その、…」
そこまで言って菊池は黙った。
気持ちは分からなくもないけど、なんで今やめるわけ?
こっちは、いつまでも過去の菊池に囚われて生きていくつもりはないってのに…
いや、嘘だ。
あの頃の菊池を許する事は、一生ない。
「まだ感情のコントロールが下手で、ごめん。……それにさっきも」
勝手に友達、と言ってしまった。
爪を突き立てるように手を握るもんだから、そっと庇うように両手で包み込む。
「違う。俺は菊池に謝って欲しいんじゃない」
反省も後悔も必要だけれど、俺に謝り続ける人生なんて送ってほしくない。
誰に何を 理解されなくていい
俺は、菊池の成長を見届けると決めたんだから。
「なら、どうしたら歩に認めてもらえる?ちゃんとやれてるって…俺がまた馬鹿な真似をしないって保証もできないのに…」
感情を証明できるものなんかない。
再会してから毎日連絡してるし、精神もずいぶん安定している。
けれどそれは俺が見た菊池だ。
趣味趣向、その日にあった些細な出来事で笑い合う仲になっても菊池自身まだ不安なんだろう。
いつまた暴走するかもしれない自分が…。
「いつになったら出来ると思う?」
「……ご、5年か、10年後か…」
「そんな先まで待たせるつもりなら、もっと…先に言っとくことない?」
「は……?」
「ないの?」
大事なことあるだろ?
ポカンとした表情から戻らないあたり、俺の言ってる意味が伝わってないわけではないらしい。
「ふーん。俺が他の人のものになってもいいんだ?」
「よ、よくないっ!でも、えっ…!?だって俺は…っ」
真っ赤な顔をして激しく狼狽える菊池をおもしろいと思う日がくるなんて、誰が予想しただろう。
「歩…これ、俺の勘違い?いや、勘違いでもいいよ!いいんだけど、その…」
「いいよ、俺のために頑張ってくれてるんなら」
春日の件はともかく、依岡先輩の件については俺が巻いた種だ。
それを無視せず助けに来てくれたのは嬉しかった。
これを恋と呼ぶんなら、
ここで、始めちゃダメだろうか?
「だからっ、菊池雅之くんは、少し…ほんの少しだけど、欲張っていいと思います!」
言わせるな、馬鹿!!
と、そのポカンとした間抜け面にキスをかましてやった。
俺は、もう全部知ってるし
とっくに覚悟決めたから、踏み込んでるんだよっ
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「もう少し落ち着いたら、うちくれば…?」
「いやいや。だって…俺、歩の両親に嫌われてるじゃん…」
「両親だけじゃなくて、妹にもだけど」
「……そ、だよね」
あ、ズーン…っと落ち込んだ。
俺は正気を疑われるだろうし、コイツはたぶん俺の親に殴られるだろうな…
いや、それで済んだらいいけど…
「でも、俺がいるから。大丈夫だって」
お前の親からは請求できるだけの慰謝料をぶんどったんだ。
例え、それが向こうの痛手になってない金額でも金は金だ。
それに俺はともかく、早かれ遅かれ菊池には金が必要になるだろう?
「歩って、俺が見ないうちに、すっかり男らしくなったなぁ……」
「か弱いΩでいるは、やめたから」
みんなに迷惑をかけるからといつも下を向いた。
俺の人生を生きづらくしていたのはΩ性と向き合ってこなかった、俺自身だった。
菊池が菊池と向き合うと選んだように、俺もちゃんと自分の弱さと付き合ってくよ。
「うん。そっちの方がカッコよくていい」
「だろ?」
「……歩。好きだよ。だから、俺を一人前になったと判断したら、その時は……」
「うん。ちゃんと見てるから、頑張って」
ぎゅうっとお互いの手を握り締めて、俺たちは公園を後にした。
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