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ありがとうーーその五文字を言われるだけで、人は少なからず嬉しい気持ちになる。
きっと誰もが物心ついた頃には自然と覚えているくらいに身近な言葉。
何年も生きている人間なら、言ったことも言われたこともあるはずのフレーズ。
街角でも、学校でも、オフィスでも、耳を澄ませばそこら中が"ありがとう"で満ちている。
そして、私の職場には"ありがとうどろぼう"と呼ばれるくらいに日々皆から感謝の言葉を投げかけられている人物がいた。
同僚の有賀冬弥だ。
彼はとても気配りのできる男性で、いつだって仕事も完璧にこなす。
「それ、持ちましょうか?」
「お茶、淹れときました」
「主任、企画会議のプレゼン用の資料のデータが古かったので新しいものに差し替えておきました」
小さい"ありがとう"から大きな"ありがとう"まで、低く見積もっても1日平均して40回は誰かしらから感謝されている。
私が知らない職場の外の人間関係も合わせたら、きっと100を超えるくらいの"ありがとう"を集めているのではないだろうか。
そんな万人から頼りにされ好かれている有賀君だが、私は彼が嫌いだ。
別に嫉妬しているわけじゃない。
有賀君は、何故か私にだけは唯一優しくないのだ。
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