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「前回って、課題出た?」
彼女は息を切らしながらも小さめの声で、でも決して暗くはない調子で私に話しかけてきた。大きい黒目が印象的で、そして口角が上がっている表情は、当たり前のことだが彼女が今生きているということを感じさせた。
「ううん、説明だけだったよ」
初対面にしては、やや馴れ馴れしい調子だったが、そうやって話しかけてもらえると逆に気が楽だった。授業中にちょっとした質問を投げ掛けやすそうな感じに私はホッとしていた。
そして、先生の
「45分まで、実際に今説明したことをやってみてください」
いつものごとく、うすらぼけた感じで所々説明を聞き漏らしていたので、
今度は私のほうから話しかけるのは、さも当然といったふうに隣の席の人に問うた。
「この図形を挿入ってどうやるんだっけ?」
「これは、画面のここだよ」
彼女は、私と違って説明をちゃんと聞いており、そしてそれを面倒がらずに教えてくれた。そしてこの先のこの授業についていけそうな予感は、私に心地よい安堵をもたらし、一回目の授業で感じた居心地の悪さを忘れさせた。
それから授業が終わって、帰る準備をしていると
「あのさ、まだ名前言ってないよね?私経済学部の三上ありさ」
「私は、社会学部の石橋淳」
「淳ちゃん?いい名前だね!来週からもよろしくね」
「うん、よろしく、ありさちゃんもかわいい名前だね、ぴったり」
「ありがと、じゃあ私行くね!またね」
ありさちゃんは来た時と同じように、小走りで軽やかに去っていった。
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